埋木帖

政策をテーマにエッセイをつらつら書きます

「シン・ウルトラマン」で学ぶ行政学 ~なぜ「防災庁長官」ではなく「防災大臣」なのか~

※一部ネタバレを含みますが、本筋にはほとんど関係がありません

 

早速「シン・ウルトラマン」を見てきました。「シン・ゴジラ」と比較すると霞が関要素はだいぶ薄まっていましたので、本ブログでいろいろと考察する余地はあまりないかなとも思いましたが、前回の記事から「防災大臣」についてもう少し補足した方が良いとも思いましたので、改めて本稿でご紹介したいと思います。

 

今回のメインテーマは「なぜ『防災庁長官』ではなく『防災大臣』なのか」です。

 

 

「防災大臣」のいる防災"庁"

今回、主人公の神永らが所属する防災庁には「大臣」が置かれています。劇中では「防災大臣」という役名で岩松了さんが演じておられました。

さて、一見違和感がないようにも思えますが、通常「庁」のトップは「大臣」ではなく「長官」です。例えば、内閣府の外局である消費者庁のトップは「消費者庁長官」です。また、同じく内閣府外局である金融庁にも金融大臣はおらず、いるのは金融庁長官です。

「あれ『金融大臣』はいるでしょ?」と思われた方もいるかもしれません。確かに、金融分野を担当する大臣はいますが、正しくは「金融大臣」ではなく「内閣府特命担当大臣(金融担当)」という名称です。「え、一緒でしょ?」と思われるかもしれませんが、実は「〇〇大臣」と「内閣府特命担当大臣(○○担当)」は、講学上異なるものです。まずは、大臣についてみていきましょう。

 

「主任の大臣」と「無任所大臣」

まず、国務大臣には主に「主任の大臣」と「無任所大臣」の2種類があると認識してもらって構いません。

主任の大臣」とは「内閣府および各省庁の長として,それぞれの行政事務を分担管理する地位における内閣総理大臣およびその他の国務大臣」(ブリタニカ国際大百科事典)のことです。一般的に想像される財務大臣厚生労働大臣など「省」のトップのことです。また、内閣官房内閣府の場合は、内閣総理大臣が主任の大臣を務めています。

これに対して「無任所大臣」とは「内閣を構成する国務大臣のうち,内閣府および各省庁の長としてそれぞれの行政事務を分担管理する地位にある大臣(主任の大臣 ) 以外の大臣」(前掲)のことです。「そんな大臣がいるのか」と思われるかもしれませんが、内閣官房長官や前述の内閣府特命担当大臣が(広義の)無任所大臣に該当すると解されています(参議院法制局2020)。

内閣府を例に考えてみましょう。
繰り返しになりますが、内閣府の主任の大臣は内閣総理大臣が務めています。しかし、これとは別に

内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関して行政各部の施策の統一を図るために特に必要がある場合においては、内閣府に、内閣総理大臣を助け、命を受けて第四条第一項及び第二項に規定する事務並びにこれに関連する同条第三項に規定する事務(これらの事務のうち大臣委員会等の所掌に属するものを除く。)を掌理する職(以下「特命担当大臣」という。)を置くことができる。内閣府設置法第9条)

となっています。つまり、主任の大臣ではないが、必要であれば主任の大臣(内閣府の場合、内閣総理大臣)を助けるために大臣を置ける、ということです。

もっとざっくりと言ってしまえば、

という認識で、大きな問題はないと思います。

 

内閣府特命担当大臣(防災担当)」ではなく「防災大臣」

さて、勘の良い方は「あれ、それでも今も『内閣府特命担当大臣(防災担当)』はいるよな」と思われるかもしれません。おっしゃるとおり「内閣府特命担当大臣」には「○○担当」という名称で、複数の内閣府特命担当大臣がおり「内閣府特命担当大臣(防災担当)」は現実世界でも既に存在する役職です。

「シン・ウルトラマン」内の「防災大臣」という名称も、劇中で分かりやすくするために「内閣府特命担当大臣(防災担当)」と長ったらしい名称にせず、あえてそうしたと解することもできるかもしれません。しかし、「シン・ゴジラ」においては中村育二さんが「金井 内閣府特命担当大臣(防災担当)」という役名で演じられていることから、あえて「防災大臣」という名称にしたと解した方が自然でしょう。

先ほどからタラタラと書いているように「○○大臣」と「内閣府特命担当大臣(○○担当)」は違う種類の大臣です。では、「シン・ウルトラマン」の「防災大臣」は何者だと考えれば良いのでしょうか。

 

「防災大臣」は復興大臣・デジタル大臣と同種?

「防災大臣」が何者なのかを考えるにあたってヒントとなるのは「復興大臣」と「デジタル大臣」です。

復興庁(2012年設置)とデジタル庁(2021年設置)は、それぞれ「庁」ですが「〇〇大臣」がいます。

www.reconstruction.go.jp

www.digital.go.jp

しかし、復興庁の主任の大臣は、内閣総理大臣です。

内閣総理大臣は、復興庁に係る事項についての内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣とし、第四条第二項に規定する事務を分担管理する。(復興庁設置法第6条第2項)

デジタル庁も同様です。

内閣総理大臣は、デジタル庁に係る事項についての内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣とし、第四条第二項に規定する事務を分担管理する。(デジタル庁設置法第6条第2項)

つまり、復興大臣もデジタル大臣も主任の大臣ではありません。

ただ、無任所大臣かというと、それも微妙で、あえて言うのであれば、復興大臣・デジタル大臣は「主任の大臣と無任所大臣の中間に位置づけられる大臣」といったところです。結構、特殊な位置づけと言えるでしょう。

では、なぜこのような特殊な位置づけの大臣が置かれているのでしょうか。いろいろな説明は可能だとは思いますが、言うなれば「内閣総理大臣のリーダーシップを発揮して、最重要の政策課題に取り組むことをアピールするため」だと思います。

復興庁は東日本大震災という未曽有の大災害からの復興、デジタル庁は新型コロナウイルス感染症によって迫られたデジタル化への対応という、いずれも時の政権が最重要と捉えている政策課題に取り組むために創設された庁です。どちらも政策を進めていくためには強力なリーダーシップが欠かせません。そのため、これらの庁は内閣総理大臣自らがトップを務めるという形を取ることで、その政策遂行の本気度を内外に示すことを狙っているのではないでしょうか。ただ、実務上、内閣総理大臣がその庁の業務を実際に進めることは困難ですから、別に大臣を設置していると考えられます。

そして、「シン・ウルトラマン」内での「防災大臣」も、この復興大臣・デジタル大臣と同じ位置づけと考えられます。すなわち、防災庁は禍威獣対策という最重要の政策課題に対応するために創設され、(復興庁やデジタル庁と同じように)その本気度を示すため主任の大臣は内閣総理大臣が務めているのでしょう。そして、内閣総理大臣自らが防災庁の実務を進めるのは困難であるため「防災大臣」を設置しているのではないでしょうか。

参考文献

「シン・ウルトラマン」で学ぶ行政学 ~第0回「防災庁」構想~

復興庁が入る中央合同庁舎第4号館(右)と内閣府防災担当が入る中央合同庁舎第8号館(左)、いずれもwikipediaより

ご無沙汰してます。少し時間があったので、いつぞやに書いて反響のあった「シン・ゴジラで学ぶ行政学」(全5回)の二番煎じ企画として「シン・ウルトラマンで学ぶ行政学」と題して久しぶりに記事をアップしようと思います。

 

シン・ゴジラ」から学ぶ行政学はこちら↓

umoregicho.hatenablog.com

 

とはいっても、「シン・ウルトラマン」の公開は5月13日(金)なので、関係者でも何でもない私は内容が全く分かりません。

しかも、事前情報もあまりないので、テイストも「シン・ゴジラ」から変わっている可能性は大いにありますので、この企画が果たして成立するのかも定かではありません。ただ、予告編や公式サイトを見ると気になる言葉が載っています。

 

「防災庁」

 

今回は、この「防災庁」についてご紹介したいと思います。

 

「防災庁」とは、どのような組織か

「シン・ウルトラマン」では主人公の神永新二(演・斎藤工)らは「防災庁 禍威獣特設対策室専従班(通称・禍特対)」に所属しています。

shin-ultraman.jp

公式サイトには

「次々と巨大不明生物【禍威獣(カイジュウ)】 があらわれ、その存在が日常となった日本。通常兵器は全く役に立たず、限界を迎える日本政府は、禍威獣対策のスペシャリストを集結し、【禍威獣特設対策室専従班】通称【禍特対(カトクタイ)】を設立。」

とありますので「シン・ゴジラ」の巨災対に近いイメージで良いと思いますが、巨災対とは異なり上位組織として「防災庁」と銘打っています。

国には総務省警察庁など様々な省庁(中央省庁)が置かれていますが、2021年9月1日時点で「防災庁」という省庁は存在しません。

www.gov-online.go.jp

ただ、防災庁は単なるフィクションかというとそうでもないのです。

 

現在では少しトーンダウンをしていますが、2019年ごろまで「防災庁を設置すべきだ」という主張が多くなされていたからです。例えば元自民党幹事長・石破茂氏は「防災省設置論」をかねてから主張していた一人です。

www.asahi.com

また、関西地方の自治体で構成する「関西広域連合」も常設の防災機関として防災省(庁)の創設を国に提言しています。

www.kouiki-kansai.jp

なぜ、このような議論がなされていたのか。順を追って、見ていきましょう。

 

なぜ「防災庁」が求められたのか

災害が発生した場合、国のレベルにおいては官邸に首相をトップとする緊急災害対策本部または非常災害対策本部、あるいは防災担当大臣をトップとする特定災害対策本部が設置され、災害対応に当たります。

名称は様々ですが、いずれの場合でも実務レベルでは、内閣府の防災担当などがコアになりながら、関係する他の省庁と連携して対応に当たります。このような「分権的・多元的」な災害対応が、日本の災害対応における特徴です。

一方、多くの諸外国では、日本のような「分権的・多元的」な枠組みではなく、「命令・統制型」の枠組みが取られています。例えば、米国においては国土安全保障省の下に緊急事態管理庁(FEMA)が置かれており、統一的な対応を行っています。

米国と日本の危機管理の枠組みのイメージ(出典:坂本2019)

日本においても、このような防災に関する統一的な組織が必要ではないかという議論の中で、提唱されてきたのが「防災庁」です。

防災庁に関する議論は、大規模な災害が発生するたびに出ては消えを繰り返してきましたが、東日本大震災以降、特に復興庁の設置以降、少し違う局面に入ってきました。

 

特殊な庁「復興庁」の設置

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、岩手・宮城・福島の3県に特に甚大な被害をもたらし、その復興には何年かかるかも分からない状態でした。長期化すると見込まれた復興事業を推進するために、新たに国の機関として設置されたのが「復興庁」です。災害復興の旗振り役として新たに国の行政機関が設置されるのは、1923(大正12)年の関東大震災を受けて設置された「帝都復興院」以来のことでした。

「庁」の設置自体は、近年でもデジタル庁(2021年)や出入国在留管理庁(2019年)、スポーツ庁・防衛装備庁(ともに2015年)がありましたし、今国会でも「こども家庭庁」の設置(2023年予定)が議論されているなど、決して多くはないものの珍しくもない事象です。ただし、復興庁は3つの点でやや特殊でした。

復興庁の特殊性① トップが首相かつ大臣も設置

多くの場合、省のトップは大臣、庁のトップは長官です。

通常、大臣は政治家がなるものですが、長官は政治家ではなく官僚、あるいは外部から任用されます。例えば、現在の水産庁長官は神谷崇氏という農林水産省の官僚の方ですし、文化庁長官は都倉俊一氏という作曲家の方(「どうにもとまらない」や「ペッパー警部」を作曲されています)です。いずれにせよ、選挙で選ばれた政治家が庁のトップを務めている訳ではありません。

一方、復興庁の場合、名目上のトップは首相が務めます。ただ、首相が逐一、復興庁の事務を処理することは現実的ではありませんから、首相を補佐するため復興大臣も置かれています。一般的な庁には政治家でない長官しか置かれないのとは対照的です。それだけ復興庁には強いリーダーシップを発揮することが期待されていたと言えます。

復興庁の特殊性② 局・部・課がない

シン・ゴジラ」で印象的だったのが、登場人物の肩書の長さではないでしょうか。

例えば、野間口徹さんが演じていたのは「立川 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 原子力政策課長」という役柄でした。初見で噛まずに言い切れる自信が一切ない長さですが、なぜこのように長くなるかと言えば「〇〇部」「××課」といった部局名がすべて入っているからです。実際に資源エネルギー庁の組織図を見ると、長官官房(一般企業の総務部門をイメージしていただければ問題ないでしょう)と3つの部によって構成されていることが分かります。これらの下に課が置かれ、それぞれで事務を担当しています。

資源エネルギー庁の組織(出典:資源エネルギー庁HP)

また、これらの局・部・課がいくつ置かれ、どのような事務を所管するのかはすべて法令で定められています。資源エネルギー庁なら経済産業省組織令にどのような部と課を設置し、それぞれが何を所掌するのかがすべて規定されています。

elaws.e-gov.go.jp

このように、通常の省庁では何をどこの部局が担当するのかがカチッと決まっています。

しかし、復興庁は違います。以下は復興庁の組織図ですが、部や課の表記がありません。

復興庁の組織図(出典:復興庁HP)

復興庁では、部や課の数や所掌事務について明確に法令で規定されておらず、最少の単位も課ではなく班となっています。これは復興庁が

復興庁の組織は、任務及びこれを達成するため必要となる明確な範囲の所掌事務を有する行政機関により系統的に構成され、かつ、東日本大震災からの復興に関する内閣の課題に弾力的に対応できるものとしなければならない。(復興庁設置法第5条)

と規定されているためです。

復興庁の特殊性③ 設置期間の定めがある

(復興庁の特殊性と銘打っておきながら今更申し上げにくいのですが)前述の①と②は復興庁発足当初は、まさに復興庁でしか見られない特徴だったのですが、昨年に菅義偉首相(当時)肝いりでデジタル庁が設置されたことで、デジタル庁でも見られる特徴となっています。

ただ、デジタル庁でも見られれない復興庁の特徴がまだあります。それは、復興庁には設置期限があるという点です。

成立した当初の復興庁設置法第21条には、復興庁の設置は東日本大震災発生から10年後である2021年3月31日までとし、それまでに復興庁は廃止されることになっていました。

普通、行政の仕事は終わることが前提にはなっていません。警察の仕事も、福祉の仕事もそこに人が暮らし続ける限り、永続していく仕事です。しかし、復興庁の場合は、復興事業という、ある意味「一日でも早く終わらせる必要のある仕事」をしています。その意味でも、復興庁は設置された時点で、いつか廃止しなければならない庁だったのです。

 

さて、前置きが少々長くなってしまいましたが、この「2021年3月31日までに復興庁を廃止しなければならない」という規定が、前述した「防災庁」の議論につながっていきます。

 

「復興庁の後継組織として『防災庁』を」

復興庁の廃止期限が迫ってきた2019年3月、復興庁の継続議論に加え、防災庁設置の議論が多くされるようになっていきます。

現在もそうですが、この当時も東日本大震災からの復興は、まだまだ途上であり、復興を一元的に担う組織は、2021年3月以降も必要になるという共通認識はあったのでしょう。

ただ元来、政治家は組織をいじるのが大好きな生き物です。この復興庁の継続議論をきっかけにして、以前からあった防災庁の議論が融合し、単に復興庁を継続するのではなく、復興・防災を一元的に扱う組織を創設すべきという主張が出てきます。

具体的には、復興庁と内閣府防災担当を統合し、東日本大震災に限らない災害全般の組織とする案が検討されていたようです。

www.nikkei.com

www.asahi.com

ただ、最終的にはこの防災庁構想は日の目を見ずに議論は収束します。2019年7月の報道では

政府・与党は2021年3月に設置期限を迎える復興庁を当面、存続させる。首相直轄で復興相が補佐する現体制を続け、東北の復興を重視する姿勢を示す。復興庁と内閣府の防災担当の集約は見送る。

www.nikkei.com

とあり、議論の盛り上がりから半年足らずで防災庁構想は消えました。

なぜ、防災庁が実現しなかったのか、『河北新報』は以下のように伝えています。

安倍晋三前首相(66)が率いた官邸は大幅な組織改編につながる復興・防災庁構想には消極的だった。熊本地震(16年)や西日本豪雨(18年)で、官邸中心の危機管理が機能したと考えていたからだ。

被災自治体には異なる懸念があった。福島県の内堀雅雄知事(57)は「復興のトップは引き続き閣僚が望ましい」と防災庁構想をけん制。防災部門との統合により、復興がおろそかになることを恐れていた。

kahoku.news

つまり、①官邸サイドとしては、現状の組織体制でも防災対策が機能しているにもかかわらず、政治的なエネルギーを費やしてまで新しい庁を設置するインセンティブがなかった、②被災自治からしても、防災政策と一体化されることで東日本大震災からの復興の優先順位が低下することを恐れたから、ということになります。

 

「防災庁」創設の必要性はあるのか

2020年6月、改正復興庁設置法が成立し、復興庁は従来の組織体制のまま、その廃止の期限が2031年3月31日まで延長されました。今後しばらくは防災庁の議論はあまりなされなくなるでしょうが、2031年3月に近づいた時や大規模な災害が発生した時に再燃する可能性はあるでしょう。

 

では、実際に「防災庁」を設置する必要性はあるのでしょうか。ここは、個人の意見ですが、現状の限りにおいては、その必要性は低いでしょう。

その最大の理由は、2019年の際の議論と同様に「現行の関係省庁間で連携する体制でも、一定の対応はできている」からです。阪神淡路大震災東日本大震災、そして近年毎年のように発生している風水害などの対応は、非の打ちどころのない素晴らしいものとは言い難いのも事実です。しかし、災害のたびに、そこから得られた教訓をもとにブラッシュアップを重ねてきた現在の災害対応はある程度、機能していると言っても良いでしょう。

逆に、防災庁を設置することによって、現行の体制からどのような点がどう改善されるのか、そこが明確にならない限りにおいては、膨大な政治的なエネルギーを払ってまで取り組む必要性はないのではないでしょうか。

これまでの新たな庁の設置は、新たな社会問題に一元的な対応をするために行われてきました。例えば、1971年の環境庁設置は公害問題に対応するため、2009年の消費者庁設置は食品偽装問題や悪質商法などの消費者問題に対応するための動きです。いずれも、社会が変化する中で対応が求められるようになった”新たな問題”へ呼応する形で”新たな庁”が設置されたと言えます。

では、災害についてはどうでしょうか。いくら災害が多発化・激甚化していると言っても、災害大国である我が国において災害は、新しい問題などではありません。

また、災害対応は確かに統一的な対応が求められる分野ではありますが、所管官庁を一元化しなければならないほどに現在、バラバラな対応しかできていないのでしょうか。むしろ、災害対応についてはややもすると縦割りに走りがちな行政であっても、組織の垣根を越えて対応しやすい数少ない分野と言っても良いと思います。

そのような現状であってもなお、防災庁を設置する必要性は何なのか。防災庁推進論者は、その立証をしなければなりません。

 

劇中の「防災庁」に関する考察

だいぶ現実世界の話に寄ってしまいましたが、最後に「シン・ウルトラマン」の世界に寄せておきましょう。

ここまで読んでいただいた方にはもうお分かりだと思いますが、劇中の防災庁は現行の復興庁をモデルにしていると思われます。防災庁の内部部局である「禍特対」が「課」ではなく「班」となっているのは、まさに現在の復興庁の組織体制のそれそのものです。また、細かい点ですが主要人物のIDカードの発行が「防災庁大臣官房人事課」となっていることから、ここも復興庁と同様に大臣が置かれた庁であることが分かります。(長官しか置かれない通常の庁であれば、大臣官房ではなく長官官房となるはずです)

 

※現在も「内閣府特命担当大臣(防災担当)」は存在しますが、このIDカードから推測すると劇中では防災庁は大臣庁となるため「防災大臣」という肩書になるはずです。(こんなニッチなこと誰が気にするのか)

 

 

 

また、禍威獣の出現が常態化するという新たな社会問題に対応するために防災庁が設置されたというふうに考えれば、防災庁の設置自体は自然です。加えて、主人公の神永新二が警察庁からの出向である他、班長の田村君男(演・西島秀俊)は防衛相防衛政策局、分析官の浅見弘子(演・長澤まさみ)は公安調査庁、汎用生物学者の船縁由美(演・早見あかり)は文部科学省からそれぞれ出向していることから、防災庁が新設の庁あり、独自に採用をしていない(またはそれだけでは十分に人材が確保できない)ために、関係する省庁から人をかき集めているであろうことも想像できます。

 

我ながら、映画公開前だというのに「防災庁」というキーワードだけで、よくここまで書けるなと呆れてしまいますが、少しは映画鑑賞前の補助線になったのではないでしょうか。

私も公開され次第、見に行く予定です。もし、本記事にそれなりの反響があり、また「シン・ゴジラ」と同様に考察のし甲斐がありそうなら、続編を書くかもしれません。

とりあえずは見てからの判断ですかね。では、公開を心待ちにしつつ、GW明け頑張りましょう。

 

参考文献

  • 坂本眞一(2019)「「防災・復興庁」をめぐる議論とその示唆」『福岡大学法学論叢』No.64, Vol.3, pp.609-625.

なぜ10万円給付オンライン申請は停止されたのか(後編)

前回は、なぜ43の自治体が特別定額給付金のオンライン申請を停止したのかというリサーチ・クエスチョンのもと「人口に比して職員の数が少ない自治体で申請を停止したのではないか」という仮説を立てました。

 

そして、オンライン申請を停止した場合を1、停止していない場合を0とするダミー変数(二値変数とも言います)を設定して、人口千人当たりの職員数との関係を散布図に落としてみました。

 

f:id:hodakakato0816:20200608224422p:plain

この散布図を見る限りでは、オンライン申請を停止した自治体(y=1)は人口千人当たりの職員数が少ないところに集中しているように見えます。

では、本当に職員数が少ない自治体ほどオンライン申請を停止しやすいのかを統計的に分析してみましょう。

 

OLS推定ではダメな理由

今回のように、ある変数が別の変数の影響を受けていることを仮定して推計を行う代表的な手法にOLS(最小二乗法)があります。

OLSについては、こちらの記事でも詳しく説明しているのでご参照ください。

umoregicho.hatenablog.com

 

今回もオンライン申請の状況を被説明変数、人口当たり職員数を説明変数とする式でOLS推定を行うことは可能です。

しかし、結果がおかしくなってしまう可能性があります。

被説明変数は、1か0しかとらないダミー変数(2値変数)です。

しかし、推定結果によっては理論値が0から1の範囲外になってしまう場合があります。

例えば、上述の散布図でも、オンライン申請の状況を被説明変数(Y)、人口当たり職員数を説明変数(X)とするOLS推定が行われています(図中の青線です)

この推定では、Y=0.0404-0.00247Xという結果が得られましたがX(人口当たり職員数)が多い自治体ではYが負の値を取っています。

本来、Yは1か0しかとらないダミー変数なのでこの推定結果はあまり整合的なものではありません。

このような問題があるため、被説明変数がダミー変数の場合はOLSではない推定方法を用いることが一般的です。

使用される推定方法として、プロビット・モデルロジット・モデルという2つの方法があります。ここでこれらの説明を詳しくはしませんが、どちらも被説明変数が0から1の間で収まるモデルです。

また、プロビット・モデルとロジット・モデルという2つの推定方法があると「どちらを使えばいいの?」と思われるかもしれません。

この問いに対する答えは「今ではどちらでもいい」となります。後ほど今回の分析結果をお見せしますが、プロビット・モデルでもロジット・モデルでも推定結果は大きく変わりません。

どちらでもいいというと「そんな適当な」と思われるかもしれませんが、こうなった答えには歴史的な経緯があります。

そもそも、プロビット・モデルは計算が非常に大変なモデルで、ロジット・モデルは計算が容易なモデルです。かつて、コンピュータの性能がそこまでよくなかった時代ではプロビット・モデルの計算が難しかったため、計算が容易なロジット・モデルが使われていました。しかし、コンピュータの性能が向上した現代ではプロビット・モデルでも多くの場合、問題なく計算ができるため、どちらのモデルを使っても特に問題がなくなりました。

ただ、複雑な式になってくると、現代でもプロビット・モデルでの推定がうまくいかない場合がありますので、その場合はロジット・モデルを用いることが推奨されます。

 

無料統計ソフト「gretl」を使って推定を行う

さて、では推定を行ってみましょう。

OLSであればExcelを使っても推定が行えますが、ロジット・モデルやプロビット・モデルでの推定はExcelでは行えません。

そこで、この記事でもご紹介した「gretl」という無料の統計ソフトで推定を行います。

umoregicho.hatenablog.com

 

ここから「gretl」はダウンロードできます。

gretl.sourceforge.net

 

 

推定に当たっては統計ソフトとは別にデータが必要です。

今回は、Excelを使って市区町村ごとにデータをまとめます。入れるデータは次の4つの変数です。まず、被説明変数としてオンライン申請を停止した自治体を1、停止していない自治体を0とするダミー変数(以下では「y」とします)、次に説明変数として人口千人当たりの職員数(同様に「syokuin」)という変数と他の説明変数として人口(pop)と情報システム経費(ict)です*1

「gretl」を使った推定では、このExcelファイルをCSV形式で保存したものを使用します。

 使用したデータは、このリンクから入手可能です。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vRCLTJnv9ivBtnIBZ2UFiu7AoFCtUg0HesbXdOrsZYT-CqSfcb5CgGxp1DNj7nLN-PFaR0uZeitn1-f/pubhtml?gid=1857954647&single=true

 

 

では「gretl」を使ってみましょう。使い方は簡単です。

①データの取り込み

まず、「gretl」を開けます。すると、このような画面が現れます。

 

f:id:hodakakato0816:20200615200314j:plain

 

次に、CSV形式で保存したデータを「gretl」に取り込みます。

画面左上の「ファイル」をクリックし、「データを開く」、「ユーザー・ファイル」を選択します。

f:id:hodakakato0816:20200615200335j:plain

 

すると、次のような画面が現れるので保存したファイルを選択します。

このとき、右下にあるファイル形式を「カンマ区切りテキストファイル(*.csv)」にしておかないと保存したファイルが現れませんので注意しましょう。

f:id:hodakakato0816:20200615200356j:plain

 

ファイルを選択すると、複数のポップアップが現れますが、今回は何もせず閉じてください。

すると、最初に開いた「gretl」のトップページに変数名が現れました。

これでデータの取り込みは成功です。

f:id:hodakakato0816:20200615200426j:plain

 

②推計

では、実際に推計を行っていきます。

「モデル」をクリックすると、複数の推計方法の名前が現れます。

f:id:hodakakato0816:20200615200452j:plain

ここで、例えば「通常の最小二乗法」を選択すると、OLS推定が行えます。

今回は、ロジット・モデルやプロビット・モデルを用いるので、それらを選択します。

ロジット・モデルやプロビット・モデルは「制限従属変数」という推定方法の中に入っています。「制限従属変数」をクリックすると、さらに「ロジット」や「プロビット」と現れるので、これらを選択します。(画像では「ロジット」を選択しています)

「ロジット」や「プロビット」を選択すると、さらに「二項」「順序付き」「多項」と現れますが、今回は「二項」を選択します。

 

「二項」を選択すると、画像のようなポップアップが現れます。

f:id:hodakakato0816:20200615200507j:plain

ここで、具体的に推定するモデルを設定します。

今回は被説明変数(従属変数)に「y」、説明変数に「syokuin」「pop」「ict」を入れるモデルでした。

 

まず、被説明変数を選択しましょう。

ポップアップの左側に変数がリストになっています。

その中の「y」を選択しましょう。「y」を選択した状態で右向きの青色の矢印のボタンをクリックします。すると、右側の「従属変数」と書かれたボックスに「y」が入ります。

f:id:hodakakato0816:20200615200545j:plain

これで被説明変数の設定は完了です。

 

同じ要領で説明変数の選択も行いましょう。

コントロールキーを使えば複数選択も出来るので「syokuin」「pop」「ict」を選択しましょう。

そいて、右向きの黄緑色の矢印のボタンをクリックします。すると、右側の「説明変数」と書かれたボックスに「syokuin」「pop」「ict」が入ります。

f:id:hodakakato0816:20200615200605j:plain

これで説明変数の設定も完了です。

 

もし、間違えてモデルに入れない変数を右の従属変数または説明変数のボックスに入れてしまった場合は、該当する変数を選択し(画像では説明変数のボックスに入ってしまった「id」)、左向きの赤色の矢印のボタンをクリックすると削除できます。

 

f:id:hodakakato0816:20200615200620j:plain

これでモデルの設定ができました。

 

最後に、下にあるオプションを設定しましょう。

今回、注目してほしいのは「平均での限界効果を表示する」と「p値を表示する」という選択肢です。

 

f:id:hodakakato0816:20200615200718j:plain

「平均での限界効果を表示する」とは、推定結果を出力する際にOLS推定で言うところの説明変数の係数を表示するというオプションです(あまり説明しませんでしたが、ロジット・モデルやプロビット・モデルで推計を行った場合に出てくる係数は、OLS推定で言うところの説明変数の係数が意味するような「追加的に1単位増やしたときの効果」を意味しません。しかし、この「平均での限界効果を表示する」を選択することで、OLS推定で言うところの説明変数の係数が推定結果に出力されるので意味が解釈しやすくなります。)

試しに、「平均での限界効果を表示する」を選択して推定してみましょう。

右下の「OK」を押せば出力されます。

結果は、この通りです。

 

f:id:hodakakato0816:20200615200734j:plain

注目してほしいのは赤い四角で囲ったエリアです。

左端には「const」(つまり、切片)、「syokuin」「pop」「ict」と並んでいます。

そして、その横には「係数」「標準誤差」「z」「限界効果」というラベルがついて数字が並んでいます。このうちの「限界効果」が先ほど説明した「OLS推定で言うところの説明変数の係数」です。

「syokuin」の「限界効果」を見ると「-0.00209727」という数字が出ています。

これは「人口千人当たりの職員数が1人減ると、オンライン申請を停止する可能性は0.2%上昇する」という意味を表しています。

ちなみに、最初の方で「ロジット・モデルでもプロビット・モデルでも結果は大きく変わらない」と言いました。

ここで、プロビット・モデルで推計した限界効果も見てみましょう。

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「syokuin」の限界効果は「-0.00182004」(だいたい-0.18%)となっており、-0.2%というロジット・モデルでの結果と大差ないことがこれで分かります。

 

ただ、これだけでは統計的に有意に「人口千人当たりの職員数が1人減ると、オンライン申請を停止する可能性は0.2%上昇する」と言えるかどうかは分かりません(厳密に言うと「z」を見れば分かりますが、もう少し分かりやすい方法を紹介します)。

 

いったん、推定結果のポップアップを閉じて、もう一度②の最初から始めて、下の画面に行きましょう。

 

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下に「平均での限界効果を表示する」と「p値を表示する」とあります。

今回は「p値を表示する」を選択してみましょう。

「p値を表示する」は文字通り、推定結果の出力に際してp値を表示してくれます。なんなら、p値だけでなく、有意水準ごとに「*」を表示してくれるのでExcelの推定より分かりやすいです。

では、右下の「OK」を押して、結果を出力してみましょう。

 

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表を見てみると、先ほど「限界効果」とあった箇所が「p値」となっており、「syokuin」のところには「***」と表示されています。

「***」は有意水準1%で統計的に有意ということを表しています。

ちなみに「**」なら有意水準5%、「*」なら有意水準10%で有意を表しています。

つまり「*」の数が多いほど、確かに統計的に有意だということが言えます。

というわけで、この結果から人口当たりの職員数が少ないと確かにオンライン申請が停止される確率が高くなると言えます。

なぜ10万円給付オンライン申請は停止されたのか(前編)

6月3日付の日本経済新聞にこのような記事がありました。

www.nikkei.com

 

新型コロナ(COVID-19)への対応として実施されている特別定額給付金(いわゆる10万円給付)には、郵送とマイナンバーカードを使ったオンライン申請という2種類の受付方法があります。

このうちのオンライン申請の受付を6月1日時点で全国43の自治体が停止したということです。

本来、オンライン申請はマイナンバーカードを使って、スムーズに申請・給付ができるようにするためのしくみです。しかし、様々なところで指摘されているように、急ごしらえで始まった10万円給付でのオンライン申請は、むしろ自治体の負担を増やす結果となっています。

分かりやすい記事としては、四条畷市長が書いたこちらのnoteをご参照ください。

note.com

 

簡単にまとめると、オンライン申請を受け付ける「マイナポータル」というシステムと自治体が住民情報を管理している「住基ネット」がリンクしておらず、「マイナポータル」の情報を紙に印刷して、職員が目視で「住基ネット」の情報と照合するといういらぬ手間が発生しているため、オンライン申請への対応が大きな負担になっているということです。

ちなみに、郵送の場合は住基ネットの情報をもとに申請書類を送り、返送してもらうので照合作業は不要です。そのため、郵送の方が手間の少ない分、オンライン申請より早く振り込まれるという事態も発生しているようです。

 

このような現場の大きな事務負担を背景に43自治体はオンライン申請の停止に踏み切ったようです。なお、本稿執筆時点でオンライン申請停止はさらに多くの自治体に広がっています。

 

では、ここで実際に43自治体の具体的な名前を見てみましょう。

北海道北見市恵庭市青森市秋田市福島県郡山市茨城県桜川市宇都宮市、埼玉県新座市三郷市志木市、千葉県旭市市原市、東京都荒川区、足立区、調布市国分寺市、八王子市、町田市、府中市武蔵野市、神奈川県厚木市福井県勝山市山梨県笛吹市静岡県袋井市湖西市三重県いなべ市滋賀県湖南市京都府宇治市亀岡市大阪府東大阪市、八尾市、奈良県橿原市、河合町、島根県出雲市岡山市岡山県笠岡市広島県福山市高松市高知市、福岡県大野城市長崎県大村市沖縄県石垣市、名護市

まさに北は北海道、南は沖縄まで全国津々浦々の自治体で停止に踏み切ったことが分かります。ただ、自治体の規模は政令市である岡山市から人口2万足らずの奈良県河合町まで様々です。地理的な傾向もあまり見られません。

事務負担の大きさは、どのような自治体でも変わらないはずです。では、なぜ特にこの43自治体がオンライン申請の停止に踏み切ったのでしょうか。

今回は、この理由をデータ分析から明らかにしていこうと思います。

 

仮説の検討

まずは、仮説を検討してみます。

オンライン申請停止の主な理由は事務負担の大きさでした。今回の10万円給付はすべての住民が対象の政策なので、事務負担の量は基本的に人口に比例するはずです。

しかし、事務量が多い自治体がオンライン申請を停止したなら、43自治体の中には岡山市以外にも人口の多い政令市(横浜市大阪市)が入ってくるはずです。

もう少し考えてみましょう。

もし、事務量が多いとしてもそれをさばくための十分な職員がいたらどうでしょうか。おそらく、それならオンライン申請の停止をする必要はないでしょう。

このように考えると、オンライン申請の停止に踏み切った自治体というのは人口に比して職員の数が少ない自治体なのではないでしょうか?

 

具体的な数値を見てみましょう。

自治体職員の数は総務省が統計にまとめています。

www.soumu.go.jp

10万円給付の業務を行うのは市区町村なので、市区町村のデータをまとめてみます。

ただ、ここで1点留意点があります。自治体職員と一言で言っても、その内容は実に多様です。例えば、教員や警察官も自治体職員です。また、今回対象とする市町村職員の場合だと消防や下水道局などで働いている職員も職員数に含まれます。

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出所:https://www.soumu.go.jp/main_content/000661210.pdf

このように多様な自治体職員の総計をそのまま使うのは今回の分析では不適切でしょう。

今回の「人口に比して職員の数が少ない」という仮説の職員は主に10万円給付に関わるような一般行政職員を指します。

より細かく言えば住民課の職員と思われますが、自治体によっては税関係の部署が事務を担当しているようなので、今回の分析では一般行政職員のうち福祉部門を除く職員(一般管理という区分になります)を対象とします。

 

では、オンライン申請の停止に踏み切った自治体を1、オンライン申請の停止をしていない自治体を0としたダミー変数を縦軸に、人口千人当たりの職員(一般管理)数を横軸にした散布図を書いてみましょう。

 

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注:図中の赤いマーカーがそれぞれの自治体を表す。

少々分かりにくいですが、おおむねオンライン申請を停止した自治体は人口当たりの職員数が少ない自治体だと言えそうです。

 

では、実際に多変量解析をしてみましょう・・・と行きたいところですが、少し問題があります。

次回・後編では、この問題に触れたうえで実際の分析を行っていきます。

 

公務員から逃げた人のためのシンクタンク業界解説(2020年版)

時期的なものもあるかもしれませんが、最近のアクセス数が一番多いのがこの記事です。

(コロナ禍で就活も大変ですよね・・・)

 

umoregicho.hatenablog.com

 


ただ、ここ最近でいろいろ動きがあったので情報のアップデートをしたいと思います。

 

みずほ情報総研みずほ総合研究所が統合、ついに「one MIZUHO」に

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みずほのシンクタンクコンサルティング機能の変遷


先般、リリースされた業界的にはちょっと大きいニュースです。
みずほフィナンシャルグループシンクタンク機能はシステム・コンサルを主な事業とする「みずほ情報総研」とリサーチ・コンサルを主な事業とする「みずほ総合研究所」の2つが並立していました。
同じくメガバンの三菱UFJフィナンシャル・グループシンクタンク機能を「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」が、三井住友フィナンシャルグループシンクタンク機能を「日本総合研究所」がそれぞれ1社で行っていたのとは対照的です。


このように特徴的なみずほフィナンシャルグループシンクタンク事業でしたが、2021年4月をめどに一本化されることになりました。
具体的には、下記のようなスキームとなるそうです。

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出所:https://www.mizuho-ir.co.jp/company/release/2020/mizuho0515.html

簡単に言うと、みずほ総合研究所みずほ情報総研が統合されます。
予定としては、みずほ情報総研が吸収合併存続会社、みずほ総合研究所が吸収合併消滅会社となるのでみずほ情報総研に一本化されるイメージです。
これにて、みずほのリサーチ・コンサル・システムを一手に担うシンクタンクが出来ることになります。
従来からリサーチはみずほ総合研究所、システムはみずほ情報総研が担当するということですみ分けはある程度行われていましたが、コンサルティング分野についてはやや重複していたため、こういった事業重複が解消される見込みです。
もちろん、まだ統合が決まったというだけですから、今後うまくまとまっていくのかは注視していく必要がありそうです。

 

富士通総研、リサーチ・コンサル機能を分化

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富士通シンクタンク・コンサル機能の再編


みずほの動きとは対照的に、こちらは分割の動きです。
今年、富士通グループが新たなコンサルティング会社「Ridgelinez」を設立し、そこへ富士通富士通総研の社員を出向させました。
富士通総研という会社はそのまま存続させ、富士通総研では公共向けのコンサルティングを、Ridgelinezでは民間向けのコンサルティングをすることで事業重複を避ける形となりました。
また、富士通総研内でリサーチ機能を担っていた経済研究所は閉所となり、また別に富士通のリサーチ機能を担う新会社「富士通フューチャースタディーズ・センター」が設立される予定です。
ちなみに、この新シンクタンクでは前国家安全保障局長の谷内正太郎氏を理事長として迎えるそうです。

ここまでをまとめると

という形になるようです。

思い切った分割、という印象ですが、この動きが今後どういう結果をもたらすのかは気になるところです。

城の復元と法令④ 文化庁の新基準

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木造再建されることが決まった松前城

 

 

コロナ禍で城めぐりもなかなかできない中ですが、明るいニュースも結構あります。

4月11日には鹿児島城跡(別名:鶴丸城)に御楼門が木造復元されました。

373news.com

 

また、2月には水戸城大手門がこちらも木造復元されました。

ibarakinews.jp

 

今後予定されている大型の復元としては、このほかに金沢城鼠多門(ねずみたもん)があります。現在は囲いの撤去が行われおり、間もなくその姿を見ることが出来ます(完成は7月の予定)。

www.hokkoku.co.jp

 

このように全国各地で進む「城の復元」ですが、城によっては思うように進んでいません。

代表例が香川県高松市高松城です。

往年の高松城には四国最大の天守がそびえていましたが、明治に入ってから取り壊されてしまいました。高松市では、高松城天守の木造復元の議論が進んでいますが実現に至っていません。

その大きな理由が文化庁「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」です。

 

 

1.旧基準の意義と問題

城跡は、市民の憩いの場や観光地である以前に「史跡」です。そのため、城跡の不用意な開発(現状変更)は史跡としての価値を損なう可能性があります。

例えば、天守があったか不明確な城跡に、全く史実に基づかない天守らしき建物が作られてしまうと、周囲の人々に「あそこは立派な天守があったお城なんだ」と誤ったイメージを植え付けてしまいます。また、さらに深刻な問題として建物を作ることで地中に眠る遺構を破壊する可能性もあります。

「そんなことしないだろ」とお思いになる方もいらっしゃると思いますが、過去(高度経済成長期頃)にはそのような城跡の破壊が珍しくありませんでした。

例えば、佐賀県唐津市唐津城には立派な天守が建てられていますが、唐津城にそのような天守はそもそも存在しませんでした。

また、福岡県北九州市にある小倉城の場合、天守自体は過去に存在していましたが、その姿かたちは現在再建されている天守とは大きく異なっています。

このような史跡の価値を損ないかねない“復元”を防ぐために文化庁が用意したのが前述した「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」です。

 

これまで文化庁は、この基準に則って城跡の復元を認める・認めないの判断をしてきました。

ただ、この文化庁の基準というのがなかなか厳しいもので、城の復元をしたい自治体にとっては大きなハードルでした。

例えば天守を復元したい場合、これまでの基準をクリアするには、古写真や絵図などの天守の外観が分かる資料だけでなく、内部の様子が分かる資料や建物の構造が分かる(どこに柱があるのか、梁はいくつあるのかなど)資料が必要でした。

しかし、それだけの資料が残っている場合は多くありません。前述した高松城天守の場合も古写真により天守の外観は分かるものの、内部や構造が分かる資料は今のところ見つかっておらず、この基準をクリアできませんでした。

 

2.新基準に定められた「復元的整備」

4月17日、文化庁の機関である文化審議会がこの「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」を改定、新たに「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」を決定しました。

www.nikkei.com

 

はい、分かりにくいですね。並べてみましょう。

旧基準:史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準

新基準:史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準

 

新基準では「復元」という言葉の後に「等」が入りました。どういうことかというと、旧基準では主に「復元」について基準を定めていましたが、新基準では「復元」に加えて「復元的整備」の基準を新たに定めました。

 

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旧基準と新基準の概要

ここから話がややこしくなるので、きちんと言葉を定義したいと思います。

まず、城跡に何らかの建物などを作ることを「再現」と言います。

この「再現」の中には旧基準に合致するような史実に忠実な「復元」も含まれます。一方で唐津城天守のような憶測に基づく建築行為も再現に含まれます(ここでは「適切な再現とは言えない再現」と表記します)。

つまり、再現には最も忠実な再現である「復元」と最も忠実でない再現である「適切な再現とは言えない再現」があります。ただ、すべての再現が「復元」か「適切な再現とは言えない再現」のどちらかにスッパリと分かれる訳ではなく、グラデーションがあります。

 

以前、私は“復元”されたある御殿を訪れました。

御殿とは、城において実際の政務を行う場と藩主の生活の場を備えた建物です(都道府県で言えば、県庁と知事公邸が一緒になった建物というイメージ)。

御殿を見学していると広間がありました。このような広間があると、藩主などが座る一番高い上座があることが多いです。しかし、その“復元”された御殿には上座がありません。そこで、私はスタッフの方に「ここには上座はなかったのですか?」と質問しました。するとスタッフの方は(とても正直な方なんでしょう)「実は、ここの内装はよく分かっていなくて、ひとまずこのような形で復元されたんです」とおっしゃられました。

つまり、現状の復元でも「資料は残っていないので、推測で“復元”する」という箇所が多分に存在するという訳です。

実際、これは致し方ない面があります。文化庁の旧基準を完全にクリアしようと思えば、復元しようとする建物の外観はもちろんのこと、すべての部屋の内装、床の下の様子、天井裏の様子も図面か古写真が残っている必要があります。しかし、そのようなすべての資料そろう訳がありません。そこで、現状でも資料のない部分については同時代の現存する建物を参考にするなどして推測される場合があるのです。

したがって、旧基準の指す「復元」とは、資料に基づく部分に基づくものと推測に基づくものがどのくらいの割合になるか、という程度問題に過ぎないと言えます。

 

そこで新基準では、このグラデーション部分を明確にしました。

旧基準では、「復元」と「適切な再現とは言えない再現」の中間に当たるものを明確に定義していませんでしたが、今回の新基準では中間にあたる再現として「復元的整備」を明確に定義しました*1

細かな「復元的整備」の定義については、実際の新基準を見ていただければと思いますが、かいつまんで説明するなら「資料がなく、推測に頼らざるを得ない部分については妥当な推測を行い、推測を行った旨を明示すればよい」とされました。

 

さて、この新基準について「昔のような憶測に基づいた天守がどんどん作られてしまうのではないか」という批判がtwitterなどで散見されました。

ただ、ここまでお読みいただいた方ならお分かりいただけると思いますが、新基準によってできるようになるのは、あくまでも「妥当な推測に基づく再現」です。「適切な再現とは言えない再現」については、今後も認められないので、上記のような批判は当たりません。

わりとフォロワーが多い方が、こういう事実誤認に基づいた批判をされているので、是非「一次資料」である新基準そのものに当たってほしいものです。

 

3.今後予想される動き

このように「復元的整備」を認めた新基準の決定により、今まで資料の制約によって復元できなかった城跡では「復元的整備」という名で城跡の整備が行われるでしょう。

冒頭で取り上げた高松城はまさに「復元的整備」が想定される事例ですので、今後の関係者の動きを注視したいと思います。

 

しかし、より大きな影響を与える領域は、新たな天守の復元的整備ではなく、天守の建て替えだと思われます。

現在、何らかの形で天守が存在する城跡の多くが高度経済成長期頃に鉄筋コンクリートで建てられた天守です。鉄筋コンクリートの耐用年数は50~60年と言われていますので、そろそろ各地の城では建物の更新を迎えます。しかし、復元の基準が緩かったころに建てられた天守は従来の基準を満たせないところも多く、いかにして更新を行うのか(コンクリートを延命させるのか、木造で建て替えるのか等)は関係者にとって頭の痛い課題でした。

今回、文化庁が新基準を決定したことにより、更新の方法として「木造再建」に取り組みやすくなったのは間違いないでしょう。

既に北海道松前町の松前城(別名:福山城)はRC造りの天守を木造で建て替える方針を打ち出しています。

松前城の他にも戦後、RC造りで再建された天守としては、和歌山城岡山城福山城広島城などがあります。これらの城も老朽化の問題に直面していますので、今後の整備方針の決定に新基準が影響を与える可能性は十分にあります*2

 

また、新基準は天守だけでなく他の建物の再現にも適用されるので、これまで以上に櫓や城門の整備が進むことも期待されます。

例えば、山形城一文字門は高麗門と櫓門から成る枡形の門ですが、櫓門については資料が見つからず、高麗門と周辺の塀の復元のみにとどまっています。新基準が一文字櫓門の再建を後押しするかもしれません。

 

参考文献

*1:旧基準でも、「復元的整備」という表現はありましたが、必ずしも「復元」と「適切な再現とは言えない再現」の中間に当たるものとして明確に定義されていたわけではありません。。

*2:木造での建て替えが議論されている天守として名古屋城もありますが、名古屋城に関する資料は豊富であり、「復元」が可能なため、旧基準でも満たせます。したがって、新基準が名古屋城に与える影響はほとんどないでしょう。

経済学は言う「休業補償は社会的に望ましい」と

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、自治体が飲食店に休業を要請した。そのとき、飲食店に対し何らかの休業補償をすべきか否か。経済学の立場から言えば、明確に「Yes」である。

経済学に「外部不経済」という概念がある。ある財・サービスの取引量と取引価格は、需要曲線と供給曲線によって決まる。例えば、外食市場について考えてみよう。外食の需要は通常時から減ったものの、完全になくなるという訳ではないので需要曲線が描ける。縦軸に価格、横軸に量(何食分くらいに考えてもらえればいい)を取った時、需要曲線は右下がりの曲線となる。

また、各飲食店もできることなら営業を行いたいので供給曲線が描ける。供給曲線は右上がりの曲線となる。ここで供給曲線の意味を確認しておこう。供給曲線は、外食を提供するのにかかる費用がいくらかを示したものだ。この費用というのは、あくまで飲食店が払うコストのことである。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、飲食店が営業を行うと「感染が拡大する」という社会的な費用がかかる。これは飲食店が直接的に払うことのない費用になる。このように「生産者は費用を払わないが、社会的には費用(不利益)が生じること」を外部不経済と言う。この外部不経済を含めた供給曲線、つまり社会全体で払うことになるコストを示した供給曲線を、ここでは「真の供給曲線」と呼ぶことにしよう。

ここまでで、需要曲線・供給曲線・真の供給曲線という3つの曲線が出てきた。これを簡単な図と式を使って、外部不経済の特徴を見てみよう。

まず、3つの曲線を下記のように定義する。

 

需要曲線:P=-Q+1200

供給曲線:P=2Q

真の供給曲線:P=2Q+600

ここで、Pは価格、Qは数量である。これら3つの曲線をプロットしたのが図1である。

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図1

さて、前述したようにある財・サービスの取引量と取引価格は、需要曲線と供給曲線によって決まる。通常の市場では、社会的に払う費用は加味されない。そのため、取引量と取引価格は需要曲線と供給曲線によって決まる。今回の場合は、価格が800円、量が400食で均衡となる(図2)。

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図2

では、社会的にかかる費用を加味した場合はどうか。その場合は、需要曲線と「真の供給曲線」によって決まる。その場合、価格が1000円、量が200食で均衡する(図3)。

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図3

注目してほしいのは、新型コロナウイルスの感染拡大という社会的なコストを加味した場合、取引量が400食から200食に減少するということである。つまり、取引量を減らした方が社会にとっては望ましいのだ。しかし、実際の市場では、新型コロナウイルスの感染拡大というコストとは関係なく取引量が決まってしまうので、社会的に望ましい200食ではなく400食が取引されてしまうことになる。

では、過剰に取引されている外食を減らし、社会的に望ましい取引量に抑えるにはどうしたらよいだろうか。経済学では、外部不経済が発生し、事業者に生産する権利がある場合には補助金を出して減産をしてもらうことで望ましい生産量に抑えることができるとしている。このような補助金を専門用語で「ピグー補助金」という。

今回の例で行くと、飲食店に「1食提供を減らすごとに600円、補助金を出す」という政策を取ることで取引量が過剰な400食から社会的に望ましい200食に減らすことが出来る。

つまり、新型コロナウイルス対策として事業者に補助金を出すことは社会的に望ましいことと言えるのである。