埋木帖

政策をテーマにエッセイをつらつら書きます

「シン・ウルトラマン」で学ぶ行政学 ~なぜ「防災庁長官」ではなく「防災大臣」なのか~

※一部ネタバレを含みますが、本筋にはほとんど関係がありません

 

早速「シン・ウルトラマン」を見てきました。「シン・ゴジラ」と比較すると霞が関要素はだいぶ薄まっていましたので、本ブログでいろいろと考察する余地はあまりないかなとも思いましたが、前回の記事から「防災大臣」についてもう少し補足した方が良いとも思いましたので、改めて本稿でご紹介したいと思います。

 

今回のメインテーマは「なぜ『防災庁長官』ではなく『防災大臣』なのか」です。

 

 

「防災大臣」のいる防災"庁"

今回、主人公の神永らが所属する防災庁には「大臣」が置かれています。劇中では「防災大臣」という役名で岩松了さんが演じておられました。

さて、一見違和感がないようにも思えますが、通常「庁」のトップは「大臣」ではなく「長官」です。例えば、内閣府の外局である消費者庁のトップは「消費者庁長官」です。また、同じく内閣府外局である金融庁にも金融大臣はおらず、いるのは金融庁長官です。

「あれ『金融大臣』はいるでしょ?」と思われた方もいるかもしれません。確かに、金融分野を担当する大臣はいますが、正しくは「金融大臣」ではなく「内閣府特命担当大臣(金融担当)」という名称です。「え、一緒でしょ?」と思われるかもしれませんが、実は「〇〇大臣」と「内閣府特命担当大臣(○○担当)」は、講学上異なるものです。まずは、大臣についてみていきましょう。

 

「主任の大臣」と「無任所大臣」

まず、国務大臣には主に「主任の大臣」と「無任所大臣」の2種類があると認識してもらって構いません。

主任の大臣」とは「内閣府および各省庁の長として,それぞれの行政事務を分担管理する地位における内閣総理大臣およびその他の国務大臣」(ブリタニカ国際大百科事典)のことです。一般的に想像される財務大臣厚生労働大臣など「省」のトップのことです。また、内閣官房内閣府の場合は、内閣総理大臣が主任の大臣を務めています。

これに対して「無任所大臣」とは「内閣を構成する国務大臣のうち,内閣府および各省庁の長としてそれぞれの行政事務を分担管理する地位にある大臣(主任の大臣 ) 以外の大臣」(前掲)のことです。「そんな大臣がいるのか」と思われるかもしれませんが、内閣官房長官や前述の内閣府特命担当大臣が(広義の)無任所大臣に該当すると解されています(参議院法制局2020)。

内閣府を例に考えてみましょう。
繰り返しになりますが、内閣府の主任の大臣は内閣総理大臣が務めています。しかし、これとは別に

内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関して行政各部の施策の統一を図るために特に必要がある場合においては、内閣府に、内閣総理大臣を助け、命を受けて第四条第一項及び第二項に規定する事務並びにこれに関連する同条第三項に規定する事務(これらの事務のうち大臣委員会等の所掌に属するものを除く。)を掌理する職(以下「特命担当大臣」という。)を置くことができる。内閣府設置法第9条)

となっています。つまり、主任の大臣ではないが、必要であれば主任の大臣(内閣府の場合、内閣総理大臣)を助けるために大臣を置ける、ということです。

もっとざっくりと言ってしまえば、

という認識で、大きな問題はないと思います。

 

内閣府特命担当大臣(防災担当)」ではなく「防災大臣」

さて、勘の良い方は「あれ、それでも今も『内閣府特命担当大臣(防災担当)』はいるよな」と思われるかもしれません。おっしゃるとおり「内閣府特命担当大臣」には「○○担当」という名称で、複数の内閣府特命担当大臣がおり「内閣府特命担当大臣(防災担当)」は現実世界でも既に存在する役職です。

「シン・ウルトラマン」内の「防災大臣」という名称も、劇中で分かりやすくするために「内閣府特命担当大臣(防災担当)」と長ったらしい名称にせず、あえてそうしたと解することもできるかもしれません。しかし、「シン・ゴジラ」においては中村育二さんが「金井 内閣府特命担当大臣(防災担当)」という役名で演じられていることから、あえて「防災大臣」という名称にしたと解した方が自然でしょう。

先ほどからタラタラと書いているように「○○大臣」と「内閣府特命担当大臣(○○担当)」は違う種類の大臣です。では、「シン・ウルトラマン」の「防災大臣」は何者だと考えれば良いのでしょうか。

 

「防災大臣」は復興大臣・デジタル大臣と同種?

「防災大臣」が何者なのかを考えるにあたってヒントとなるのは「復興大臣」と「デジタル大臣」です。

復興庁(2012年設置)とデジタル庁(2021年設置)は、それぞれ「庁」ですが「〇〇大臣」がいます。

www.reconstruction.go.jp

www.digital.go.jp

しかし、復興庁の主任の大臣は、内閣総理大臣です。

内閣総理大臣は、復興庁に係る事項についての内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣とし、第四条第二項に規定する事務を分担管理する。(復興庁設置法第6条第2項)

デジタル庁も同様です。

内閣総理大臣は、デジタル庁に係る事項についての内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣とし、第四条第二項に規定する事務を分担管理する。(デジタル庁設置法第6条第2項)

つまり、復興大臣もデジタル大臣も主任の大臣ではありません。

ただ、無任所大臣かというと、それも微妙で、あえて言うのであれば、復興大臣・デジタル大臣は「主任の大臣と無任所大臣の中間に位置づけられる大臣」といったところです。結構、特殊な位置づけと言えるでしょう。

では、なぜこのような特殊な位置づけの大臣が置かれているのでしょうか。いろいろな説明は可能だとは思いますが、言うなれば「内閣総理大臣のリーダーシップを発揮して、最重要の政策課題に取り組むことをアピールするため」だと思います。

復興庁は東日本大震災という未曽有の大災害からの復興、デジタル庁は新型コロナウイルス感染症によって迫られたデジタル化への対応という、いずれも時の政権が最重要と捉えている政策課題に取り組むために創設された庁です。どちらも政策を進めていくためには強力なリーダーシップが欠かせません。そのため、これらの庁は内閣総理大臣自らがトップを務めるという形を取ることで、その政策遂行の本気度を内外に示すことを狙っているのではないでしょうか。ただ、実務上、内閣総理大臣がその庁の業務を実際に進めることは困難ですから、別に大臣を設置していると考えられます。

そして、「シン・ウルトラマン」内での「防災大臣」も、この復興大臣・デジタル大臣と同じ位置づけと考えられます。すなわち、防災庁は禍威獣対策という最重要の政策課題に対応するために創設され、(復興庁やデジタル庁と同じように)その本気度を示すため主任の大臣は内閣総理大臣が務めているのでしょう。そして、内閣総理大臣自らが防災庁の実務を進めるのは困難であるため「防災大臣」を設置しているのではないでしょうか。

参考文献