埋木帖

政策をテーマにエッセイをつらつら書きます

「民意」なんて存在しない ~選挙のあとに考える選挙~

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今回の衆院選のポスター。ちなみに、先の参院選広瀬すずちゃんでしたね


昨日10月23日に衆議院議員総選挙衆院選)の投開票が行われました。

今、本投稿を書き始めた時点で、まだ4議席ほど未確定ですが、自公が300議席を上回り大勝しました。

 

小選挙区制だから自民が圧勝する

さて、選挙があるたびに言われるのが「選挙結果は民意を反映していないのではないか」という主張です。

例えば、今回の投票率は53.68%で戦後2番目の低さとなりました

(なお、前回が戦後最低の52.66%です)。

 

www3.nhk.or.jp

また、大勝した自民党ですが比例の得票率を見てみますと、各ブロック29~39%にとどまっています。単純に考えれば有権者全体のうちの自民党得票率は15.6~20.9%(=投票率53.68%×比例得票率29~39%)となり、有権者の2割ほどの支持しか得られていないことになります。しかし、衆議院465議席のうち283議席と60.9%を占めています

 

このような実際の得票率と議席配分の間の大きな差は衆議院465議席のうち約62%の289議席を占める「小選挙区」の性質からくるものです。各選挙区からトップの1人を選ぶ小選挙区制は、各選挙区の多数派の意見を実態より大きく見せてしまいます。

 

例えば、全体でA党支持者50人、B党支持者40人、C党支持者30人の計120人の有権者からなる地域を考えましょう。この地域の議会の議席配分を住民の意見をきれいに反映させるなら、A:B:C=5:4:3になるとよいでしょう。しかし、この地域をそれぞれA党5人、B党4人、C党3人の12人の有権者からなる10小選挙区に分けたらどうなるでしょう。結果は言わずもがな、どの選挙区も最大多数派のA党が勝ち、10の小選挙区すべてでA党が勝ち、A党で議席の100%を占めてしまいます。

 

これは極端な例ではありますが、小選挙区(言い換えれば「多数決」)とは、このように「一番の多数派の意見を実態よりも大きく見せてしまう」という性質を持っているのです。

したがって、現在の選挙制度のもとでは、いくら圧勝したからと言って圧倒的な「民意」で支えられたことを意味しません。

 

民意なんて存在しない!?-マルケヴィッチの反例-

さて、ここまで民意、民意と「民意」すなわち、「ひとつの決まった国民の意見」が存在しているという前提で話を進めてきました。

しかし、性別も年齢も住む場所も何から何まで異なる1億2千万人の意見が一つの決まったものになる訳がありません。

そもそも、「民意」なんてものは存在するのでしょうか?

それを考える面白い例があります。「マルケヴィッチの反例」です。

(以下、坂井2015を参考に話を進めていきます)

 

まずは、下の表を見てください。

 

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これは、A~Eの候補を有権者55人がどのような順番で支持しているかを表したものです。

例えば、いちばん左の列は1番にA候補を支持し、2番目にD候補、3番目にE候補、4番目にC候補、5番目にB候補を支持している有権者が18人いることを表しています。

では、この選挙区で誰をA、B、C、D、Eの誰を当選させることが「民意」を表したことになるのでしょうか?

 

まず、現在の小選挙区制、つまり多数決で決めるとどうなるでしょう。

多数決では、最も支持する人を各有権者が一人選ぶものです。したがって、左から、A候補に18人、B候補に12人、C候補に10人、D候補に9人、E候補に4+2=6人が1票を投じることになり、A候補が当選します。

 

しかし、決め方は、なにも多数決だけではありません。

フランスの大統領選挙や自民党の総裁選で使われている「決選投票付き多数決」という決め方があります。これは、通常の多数決で上位2人を決めたうえで、2人のみで、また多数決を行うという方法です。

先ほど見た通り、まず多数決をするとA候補18票、B候補12票、C候補10票、D候補9票、E候補6票を獲得するので、上位2名であるA候補とB候補で決選投票を行います。

ここで、問題となるのは、1回目の投票でA、Bを選ばなかった人たちが、どちらに票を入れるかということです。今回の場合、18人がA候補を一番に支持している以外は、全員A候補を一番嫌っています。そのため、1回目の投票でC、D、Eの候補に入れていた人たち(25人)は全員、決選投票で、マシなB候補に1票を入れます。その結果、A候補18票、B候補12+25=37票で、B候補が当選します。

そう、最初の多数決の結果と違う結果となりました。

 

もっと見ていきましょう。「繰り返し最下位消去ルール」という決め方もあります。

これは、まず多数決を行い、最下位になった選択肢を消去し、そのうえでまた多数決を行う。そこで最下位になった選択肢をまた消し、また多数決を行うという方法です。面倒な方法ですが、IOC国際オリンピック委員会)で、オリンピック主催地を選ぶ決め方は、この方法です。

(2020年の東京五輪が決まった時は、東京・イスタンブールマドリードの3つの候補があり、最初の投票でマドリードが落ち、イスタンブールと東京で争い、結果東京に決まった、ということを覚えている方も多いのではないでしょうか)

では、この「繰り返し最下位消去ルール」で、この選挙区は誰を選ぶのでしょうか?

まず、1回目の投票で、最も支持を集めていなかったE候補が落選します。

1位指名でE候補を選んだ支持者は、2位指名でB候補、C候補を選ぶ人たちが、それぞれ4人、2人いるので、B候補は1位指名の12に加える形で16票を獲得、C候補も同様に10+2で12票を獲得します。その結果、2回目の投票ではA候補18票、B候補16票、C候補12票、D候補9票で、D候補が落選します。

 

(これを繰り返すので面倒な方は読み飛ばしてください)

次に3回目の投票では、2回目の投票で落ちたD候補を支持していた9人が2位のC候補に流れます。そのため、A候補18票、B候補16票、C候補21票となり、今度はB候補が落選します。3回目の投票でB候補に入れていた人たちは、1位指名でB候補を支持していた12名、1位にE候補、2位にB候補を支持していた4名の2種類いますが、どちらもA候補を最も嫌っているので(どちらの派閥もA候補が5位)C候補に流れます。

 

(読み飛ばした方、ここから)

その結果、A候補18票、C候補37票でC候補が当選します。

 

また、D候補を当選させる決め方として「ボルダ・ルール」があります。

これは、各候補にポイントを与え、その合計ポイントが最も高い人を選ぶ方法です。

この場合、1位=5p、2位=4p、3位=3p、4位=2p、5位=1pを与えましょう。

さて、今回の場合は、A候補は18人から1位、残り37人からは5位の支持を受けているので、(5p×18)+(1p×37)で127p(=90+37)となります。

同様にB候補は、(5p×12)+(4p×14)+(2p×11)+(1p×18)で156p

C候補は、(5p×10)+(4p×11)+(2p×34)で162p。

D候補は(5p×9)+(4p×18)+(3p×18)+(2p×10)で191p。

E候補は(5p×6)+(4p×12)+(3p×37)で189p。

まとめると、A候補127、B候補156、C候補162、D候補191、E候補189でD候補が当選します。

 

また、E候補が当選する決め方として「コンドルセ・ヤングの最尤法」という決め方もあります。(統計的な計算で私も理解できませんので説明はしません)

 

このように、決め方によっては、どの候補を選ぶ可能性があり、いずれの決め方も筋が通っているので「この結果が民意だ」と言うのは難しいです。もはや、民意なんてものが存在するのかと疑いたくなります。

ただ、このマルケヴィッチの反例から言えることは、ある決め方によって出た結果が必ずしも民意を表すわけではないということです。どのような選挙結果であっても、当選した方々には、絶えず国民の声に耳を傾ける努力をしてほしいと思います。

「必ずしも自分は民意の負託をうけたとは限らない」と謙虚に、謙虚に。

 

参考文献

坂井豊貴(2015)「多数決を疑う 社会的選択理論とは何か」岩波新書

※今回紹介したマルケヴィッチの反例は「第2章 代替案を絞り込む」の「3 さまざまな集約ルール」を参考にしました。個人的に選挙を考えるうえで大変参考になる本なので、一度読まれることを強くお勧めします。

 

画像出典:http://www.soumu.go.jp/2017senkyo/gallery/