埋木帖

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児童扶養手当2か月ごと支給の意味

先日、このような報道を見つけました。

 

児童扶養手当、2カ月ごとに 支給時期細分化へ(2017年8月14日付 中日新聞

www.chunichi.co.jp

 

低所得のひとり親家庭向けの児童扶養手当について、厚生労働省は十三日、支給方法を見直す方針を決めた。現在は四カ月ごとにまとめて支給しているが、二カ月ごとにすることを検討している。

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つまり、4か月分をまとめ支給していたものを、2か月分のまとめ支給にする、いわば、それ“だけ”の制度変更です。

イメージ図にもあるように支給総額が増えるわけでもありません。

この制度変更に一体どんな意味があるのでしょうか?

 

社会保障の「まとめ支給」問題

児童扶養手当は主にひとり親世帯向けの社会福祉給付の一つです。児童扶養手当は、親の収入によって支給額が変化しますが、子どもが一人の場合、1か月ごとに1~4万円ほど支給されます。

では、児童扶養手当は一般的な給与振り込みのように毎月支給されるかと言えば、そうではなく、記事中でも言及されていたように、4か月に1回、4か月分をまとめて支給されます。

このような数か月分の支給額を一括して支給されることを「まとめ支給」と言い社会保障ではよくとられる手法です。

例えば、年金は2か月に1回、偶数月に2か月分まとめて支給されています。

 

多くの場合、このような社会保障給付は指定の口座に振り込まれる形をとります。

この方式だと手数料や手続きの手間が生じるため、1か月ごとではなく、このように数か月分をまとめて支給し、コストの削減を図るのです。

 

支給する側にとっては合理的な方法と言えます。

 

しかし、この「まとめ支給」、当の支給を受ける側にとっては、なかなか厄介な仕組みです。

 

よくあるケースは、支給された直後に過剰に消費してしまい、次の支給日まで生活が苦しくなってしまうことです。

例えば、8~11月分(4か月分)の児童扶養手当の支給は12月に行われます。

1月あたり4万円の支給を受けている場合、12月に16万円を一気に振り込まれます。

12月は物入りですから、12月だけで4万円より多く使ってしまうかもしれません。

そうすると、当たり前ですが、次の支給月の4月まで、4万円未満/1か月でやりくりをしなければなりません。

イメージとしては、給料日直後に使いすぎて、給料日前に厳しくなる状態に近いでしょう。

1か月のやりくりですら、大変な訳ですから、4か月分のやりくりがもっと大変なのは想像に難くないでしょう。

 

今回の支給時期を4か月から2か月にするのは、このようなやりくりの大変さを軽減する目的があるのです。

 

「計画性」の問題か

しかし、ここまでの話だけだと「そんなの計画性がないだけじゃないか」と突っ込みたくなるかもしれません。

確かに、先ほどの例でも支給月に使いすぎなければいいだけの話で、きちんと1か月ごとに1か月分を使ってやりくりをすれば、支給前でも大変な思いはしなくて済みます

前述の通り、もともと毎月支給しているとコストがかかるから、まとめ支給をしているのであって、支給時期の細分化はコスト増につながります。

「計画性のない人間のためにコストを増やす」と考えると釈然としないでしょう。

 

しかし、人間がそもそも無計画だと考えるとどうでしょうか?

例えば、今すぐに1万円もらえるのと、1年後に1万100円もらえるとしたら、どちらをあなたは選択するでしょうか?

おそらく、多くの人は、今1万円をもらいたいと考えるでしょう。

しかし、額だけ比較しても、1年後の1万100円のほうが多いわけですから、1年後に1万100円をもらった方が、明らかに合理的です。

それでもなお、私たちが目先の利益を優先してしまうのは、1年後の1万100円より、今の1万円に大きな満足を得ているからです。

 

このような、目先の利益を優先してしまう行動特性を「現在バイアス」と言い、行動経済学ではよく知られています。

この社会保障給付と現在バイアスを考える先行研究として、Stephens and Unayama (2011)があります。

この研究では、年金の制度変更を利用し、支給月とそれ以外の月の消費行動を検証しています。

前述のように、現在の年金は偶数月に2か月分まとめ支給がされています。しかし、こうなったのは1990年以降の話で、それ以前は3か月分をまとめ支給していました。

この制度変更を利用して、その前後の月ごとの消費額の変化を見てみます。

季節によって消費額の増減はあるため、その月ごとの変化は均一にはなりません。

しかし、もし、人々が合理的な消費行動をしているなら、月ごとの変化があったとしても、制度変更前後で消費の傾向は変わっていないはずです。

 

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グラフの実線が制度変更前で破線が制度変更後です。

見てみると、制度変更前後で消費の傾向が違うことが分かります。

特に、制度変更前は年金の支給月ではなかった、4,6,10月は制度変更後に消費が増えているのが分かります。

この変化は、統計的にも優位な差であり、この結果から、人々は支給月に消費を増やしていると言え、現在バイアスの存在を確認できます。

 

また、支給時期が細分化されたことにより、消費の変動も小さくなっています。

すなわち、これは支給時期細分化によって支給月前のやりくりの大変さを軽減した可能性も示唆しています。

 

このように、現在バイアスは多くの人が持っている、いわば人間の性(さが)のようなものであり、「現在バイアスがある」ことを前提として制度設計を行ったほうが良いのではないでしょうか。

そういった意味で、今回の児童扶養手当の支給時期細分化は、被支給世帯の生活を安定化させる効果が期待できます。

 

しかし、この知見が、本当に児童扶養手当にも当てはまるかは確定的ではありません。

今後、制度変更前後でどのような変化があったのか検証していくことも必要です。

 

参考文献

大竹文雄(2016)「社会保障制度に行動経済学を活かす」日本経済研究センター

https://www.jcer.or.jp/column/otake/print837.html

厚生労働省「児童手当について」

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/osirase/100526-1.html

宇南山卓(2011)「ライフサイクル・恒常所得仮説の検証とマクロ経済学の発展」社会科学研究第63巻第1号、pp.73-90.

http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/jss/pdf/jss6301_073090.pdf

Stephens, Melvin, and Takashi Unayama (2011) "The Consumption Response to Seasonal Income: Evidence from Japanese Public Pension Benefits." American Economic Journal: Applied Economics, 3(4): 86-118.

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/app.3.4.86