埋木帖

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「シン・ゴジラ」で学ぶ行政学 ~第5回 小塚都知事の苦悩 中央と地方自治体~

シン・ゴジラ」を通して、行政学を学ぶ本シリーズ、今回は「東京都」について見ていきます。

 

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実働部隊・地方自治

シン・ゴジラ」の劇中描写は、政府(つまり、中央)が中心でした。

しかし、一部で描写されていた他の行政組織に「地方自治体(地方公共団体)」があります。

その中心が、東京都です。

劇中では、光石研演じる小塚東京都知事が政府の対応にイライラしている描写がありましたが、あまり描かれている場面は多くありません。

しかし、ゴジラへの対応という意味では、むしろ東京都のほうが大きな役割を果たしていたと言っても過言ではないでしょう。

政府が、いわば企画立案機能を主として担うのであれば、東京都のような地方自治体が担うのは実働です。

 

災害対応のメインは自治体

我が国の、災害対応の基本を定める災害対策基本法では、第5条にこのような規定がされています。

 

第5条 市町村は(略)地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務を有する。

 

つまり、災害対応は市町村が実施する責務があると規定しています。

一方、都道府県は「(前略)市町村及び指定地方公共機関が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、その総合調整を行う責務を有する」(同法4条)、国については、「地方公共団体、指定公共機関、指定地方公共機関等が処理する防災に関する事務又は業務の実施の推進とその総合調整」(同法3条2項)と規定されています。

つまり、メインは市町村が対応して、それを応援する形で都道府県、さらに必要なら国が出てくるという役割分担をしています。

つまり、災害対応の第一義的責任は市町村が負うことになるのです。

 

実際、災害対応の最前線で活躍する消防は市町村が管轄する業務です。

例えば、横浜市であれば「横浜市消防局」という消防組織を自前で用意しています。

また、昨今の過疎化で、市町村が単独で自前の消防組織を維持することが困難になってきている地域では、「一部事務組合」という形で、周辺の市町村と共同で消防組織を設置しています。

 

ゴジラ災害対応の東京都の役割

では、今回のゴジラへの対応は、どうだったのでしょうか?

1回目の上陸では、大田区・品川区という東京都特別区の地域に被害をもたらしました。

では、大田区や品川区の消防組織が動いたのかといえば、そうではありません。

 

実は、大田区や品川区は消防組織を持たなければならない市町村にはあたらないため、自前の消防組織を持っていません

 

同様に他の東京23区も消防組織を自前で持っていません。これは、特別区を一人前の市町村として法律上見なしてこなかったからです。

 

例えば、通常の市町村であれば、固定資産税の徴税権を持っています。

しかし、東京23区には固定資産税の徴税権はありません。徴税権は東京都が握っています。

 

近年の地方分権改革により、一昔前と比べればだいぶ東京23区も普通の市町村と同じような権能を有するようになってきましたが、通常であれば市町村が持っている権能を東京都に未だ握られています。

 

消防は、その代表例でしょう。

 

東京都の場合、東京23区の消防を担うために、「東京消防庁」という、東京都の組織が設置されており、これが東京23区の消防機能を担います。

劇中、小出恵介が「新たな避難場所の指定を乞う、どうぞ!」と発言しているシーンがありますが、小出恵介東京消防庁の職員、すなわち東京都の職員です。

このような住民の避難誘導や被災後の救援活動は、このような消防という地方自治体の組織によって担われているのです。

 

消防について、東京23区は、いわば「レアケース」でしたが、同じく災害時に地方自治体の組織として重要な役割を果たす組織に「警察」があります。

警察は、すべての都道府県で都道府県が管轄しています。

大阪府警」「福岡県警」というように、通常、その都道府県名が名前に入っています。

ただ、東京の場合は「東京都警」ではなく、「警視庁」という名前の警察組織が警察業務を担っています。

 

この警視庁のトップが、警視総監で劇中でも恩地警視総監が「現場には交通統制を徹底させます」と発言しています。このような交通整理も都道府県警、すなわち自治体の仕事です。

 

このように見ていくと、私たちの身近なところで実際に動いてくれる行政の仕事の多くが地方自治体によって担われているということが、よくわかると思います。

 

自治体を国もサポート

先ほど、災害対策基本法の条文を見たように自治体が災害対応ではメインの役割を果たしますが、国もサポートは怠りません。

たとえば、市町村で災害対応のため、人手が足りなくなると県や国から人を回します。

また、彼らは本来所属している県や国との連絡役としても機能します。

特に、連絡・調整役として派遣される職員を「リエゾン」と呼びます。

 

劇中で、リエゾンが出ていたシーンがあります。

それは、小塚都知事が自衛隊の派遣を求める際に、「治安出動」による派遣か、「防衛出動」による派遣かについて職員が言い争っていたシーンです。

象徴的なシーンなので覚えている方も多いと思います。

あの議論が行われていた場所としては、東京都庁のオペレーション・ルームですが、あの議論をしていたのは、都庁職員ではなく、各中央省庁から派遣されたリエゾンたち、つまり国家公務員です。

リエゾンは、通常、その身元が分かるように派遣元の役所名が書かれたビブスを着用していますが、劇中でもよく見ると「警察庁」とビブスに書かれています。

警察庁」は、「警視庁」などの各都道府県警を所管する中央官庁です。

このシーンの最後、リエゾンの一人が「でも、総理は渋るよな」と嘆息をついていますが、これは日ごろ首相と近い場所で仕事をしている警察庁職員ならではの発言と言えます。

 

このようなリエゾンたちが、派遣先の自治体でその業務について法令解釈に照らし合わせ判断を行ったり、派遣元との連絡調整をしたりしながら自治体の災害対応のサポートを行うのです。

 

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今回で、「シン・ゴジラ」で学ぶ行政学の最終回としたいと思います。

また、ちょうどいい題材が見つかったら随時更新します。

 

画像出典:http://imagenavi.jp/search/detail.asp?id=10018543