埋木帖

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「シン・ゴジラ」で学ぶ行政学 ~第3回 ヤシオリ作戦の裏側 「グレーゾーン組織」~

シン・ゴジラ」を通じて行政学を学ぶシリーズ、今回は「ヤシオリ作戦」の裏で、劇中では描かれていないながらも活躍したであろう「グレーゾーン組織」について学びます。

 

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巨災対だけでは「ヤシオリ作戦」成功はなかった

巨災対は、ゴジラ対応への専従調査班として首相官邸に設置された機関ですが、彼ら・彼女らが全ての実務作業を担ったわけではありません。(さすがに、人手が足りなさすぎます)

巨災対の仕事の中心は、あくまで「ゴジラ対応プランの企画立案」と「そのための調整」で実際にゴジラのサンプル調査や凝固剤の精製等をしたわけではありません。

しかし、これらは誰かがしなくてはならない仕事です。

では、こういった実務は、巨災対メンバーでない公務員がやったのかといえば、それも違います。

 

例として、サンプルの調査分析を考えましょう。

 

ゴジラが初めて上陸した後、ゴジラの正体を探るため、現場に落ちていた身体組織の一部を採取して、調査・分析することになりました。

ゴジラの弱点は何なのか」を探るためには、生物学的な調査が必要な仕事です。

しかし、このような専門的な調査・分析は公務員しかやれない仕事でしょうか?

確かに、専門的な知識や設備は必要でしょうが、それらさえあれば民間の大学や研究機関でも十分できますから、何も「公務員がやる必要」は、あまりないでしょう。

その一方で、今回のゴジラの分析は機密性の高い仕事とも言えますので、そこらへんの民間研究所に分析を頼むのも気が引けます。

そこで、劇中で調査分析を委託されたのが、「理研」です。

 

公的グレーゾーン組織① 独立行政法人

理研の正式名称は、「国立研究開発法人理化学研究所」です。

この「国立研究開発法人」とは、「独立行政法人」の一種です。

独立行政法人(独法)」は名前だけなら聞いたことがあるかもしれません。

独立行政法人とは、簡単に言えば「公務員がやる必要があるわけではないが、完全な民間組織に頼っては提供されないであろう業務を行うための組織」と言えます。

確かに、理研が行っている基礎的な研究開発は、その成果は大変公益性の高いものですが、すぐにビジネス化できるものではないので、民間企業では行えない業務です。

さらに、研究開発自体は、公務員がやる必要性も特にありません。

そこで、この独立行政法人という形で、基礎研究を行っているのです。

独立行政法人は、純粋な民間組織とも行政組織とも言えません。

いわば、「グレーゾーン」な組織です。

独立行政法人の職員の身分は、公務員ではありません。

(職員の身分が公務員である「特定独立行政法人」という独法もあります)

また、資金調達についても国は保証してくれませんし、納税の義務があります。

しかし、政府が野放しにしているかといえば、そうではありません。

独立行政法人は、法律(独立行政法人通則法)の規定に基づき、所管官庁の大臣から「中期目標」という、独法が達成しなければならない、目標が提示され、各独法は中期目標を達成するための、「中期計画」を作成し、大臣から計画の認可を得ます。

独法は、この認可された計画に基づき、運営を行いますが、計画期間が終われば、今度は官庁からの評価を受けなければならず、場合によっては、独法が廃止されます。

このような組織の存廃のかかった評価がなされるため、独法には効率的な組織運営を求められる訳です。

このように政府は、独法をコントロールしながら、効率的に業務を行っているのです。

 

独法は、理研のほかにも、年金の運用を行っているGPIFや奨学金を扱っている日本学生支援機構など様々なものがあり、現在87法人(2017年4月1日時点)あります。

参考:独立行政法人一覧

http://www.soumu.go.jp/main_content/000408998.pdf

 

劇中では、文部科学省が所管している理研によって、公務員でやる必要性はないが、民間に任せるには気が引ける「ゴジラのサンプル分析」業務が行われたわけです。

独法は、名前こそ「独立」ですが、計画の審査や評価がなされる所管官庁の影響は強くうけざるを得ません。

劇中の裏では、文部科学省理研に「この調査分析を最優先でやれ」と指示したのではないでしょうか?

 

公的グレーゾーン組織② 特殊法人

理研のような独立行政法人は、2001年から始まった比較的新しい組織形態です。

しかし、このような政府とも民間とも言い難い組織、「グレーゾーン組織」は、ずっと昔からありました。

その代表格が、「特殊法人」です。

特殊法人の最も身近な例は、JRではないでしょうか。

そう、ヤシオリ作戦の山場の一つである無人在来線爆弾や無人新幹線爆弾。

あれらは、間違いなくJRの協力がなければ実現できなかったはずです。

 

特殊法人とは、個別の法律に基づき設置された法人のことです。

全ての法人に適用される通則法がある独法とは、やや異なります。

また、運営面は独法よりも、かなり所管官庁の影響を受けます

独法は、言っても所管官庁の影響は中間目標、中間計画の認可、事業評価くらいでした。

しかし、特殊法人の場合は事業計画だけでなく、予算や資金調達、長の任命権まで所管官庁の大臣が持っており、官庁の子会社と言っても過言ではないでしょう。

このように、特殊法人は独法よりも、政府の影響力が強いと言えます。

しかし、影響の強さは、裏を返せば、政府による保護とも言えますので、その運営の効率性については批判が続いていました。

独法は、その批判を受け、評価を通じて効率性を確保しようとした新しいグレーゾーン組織なのです。

この結果、かつては113法人あった特殊法人行政改革や独法制度の開始により、数は減少し、今は33法人(2017年4月1日時点)しかありません。

とはいえ、残っている特殊法人はなじみ深いものが多いです。

NTTやJT日本たばこ産業)、日本年金機構中央競馬会は特殊法人です。

参考:特殊法人一覧

http://www.soumu.go.jp/main_content/000411477.pdf

 

また、前述したJRについても、JR北海道JR四国JR貨物特殊法人です。

一方で、JR東日本JR東海JR西日本JR九州は、もとは特殊法人でしたが、完全民営化を果たし、今は特殊法人ではありません。

しかし、完全民営化したとはいえ、JR東や東海は経営層に旧国鉄出身者も残っていますから、政府とのつながりは深いと言えるでしょう。

在来線爆弾はJR東日本、新幹線爆弾はJR東海の協力なくしては実現しませんでした。

おそらく、国交省関係者が頼み込んだのではないでしょうか。

 

ちなみに、公的なグレーゾーン組織として、独立行政法人特殊法人のほかにも、認可法人と言われる政府が直接やるにはなじまない事業を私企業の形態で行っている法人があり、日本赤十字社(政府がやっては、無差別の救援にはなじまない)や日本銀行(金融政策の独立性を担保するため)などが、その例です。

 

私的グレーゾーン組織・業界団体

ここまでは、政府によって設立されながらも、政府とも民間とも言えない組織を見てきました。

しかし、グレーゾーン組織は、これだけではなく、形としては民間が設立したグレーゾーン組織もあります。

それが業界団体です。

例えば、自動車メーカーの業界団体には日本自動車工業会、電力会社には電気事業連合会があります。これらは、形としては、民間企業が集まってできた組織であり、純粋な民間組織に思えます。

しかし、業界団体の多くは、かつて通商産業省など官庁の指導により設立されたものです。

高度経済成長期、日本は護送船団方式と言われる協調体制で経済を回してきました。

このため、政府は民間企業を指導する(よりハッキリ言えば、コントロールする)必要性がありました。

そこで、逐一各企業に指導するよりも業界団体を作り、そこを通じてコントロールしようとしたのです。

また、反対に民間企業としても、業界団体を通すことで政府に要望を伝えやすくするというメリットがあったので、これに応じる形になりました。

今では、官庁による業界の指導権限は縮小したので、官庁側の「コントロールする」という機能は小さくなったと考えられますが、政策立案に際しては、官庁は業界団体を通すことで関係者の意見を聞きやすいですし、逆に企業が業界団体を通じて意見要望を伝える機能は健在です。

 

シン・ゴジラ」の劇中では、ヤシオリ作戦のために必要になった、血液凝固剤の効用試験は厚生労働省を通じて、民間製薬会社に行ってもらっていますし、効果が確かめられた血液凝固剤の精製には経済産業省を通じて化学メーカーに行ってもらい、その輸送や高圧ポンプ車の確保は国土交通省経済産業省を通じて民間各社に行ってもらっているようです。

おそらく、これらの事業が迅速に行われた背景には、日頃からの業界団体を通じた官庁と民間企業との、いわば“協力関係”があったと考えられます。

 

以上、見てきたようにヤシオリ作戦」の成功の裏には、公務員たちの努力とともに、独立行政法人や業界団体など、純粋な政府組織でも民間組織でもない「グレーゾーン組織」の活躍もあったと推測できます

劇中では、この関係が良い方向につながっています。

現実でも、よい面(例えば、独法による効率的な業務運営)もありますが、その一方で、行政の仕事をグレーゾーン組織の行わせることによって、見かけだけ行政のスリム化をしているという指摘があったり、業界団体との強い結びつきは時に、消費者の利益よりも業界の利益を優先させる政策決定につながる可能性があったりするなど課題が多いのも事実です。

 

画像出典:

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 参考文献:真渕勝(2009)『行政学有斐閣