埋木帖

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「シン・ゴジラ」で学ぶ行政学 ~第1回 矢口から見る日本の内閣と補佐機能~

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ちょうど、1年前の今日「シン・ゴジラ」が公開されました。

私も話題になっていったので見に行ったのですが、ドはまりしまして、劇場で3回見たほどです。

シン・ゴジラ」の特徴は、メインの描写が、一般的な怪獣映画のようなドンパチではなく、主人公・矢口を中心とした日本政府(行政機構)の動きであることです。

しかも、その描写はフィクションの作品にありがちな、行政の勝手なイメージに基づくものではなく、緻密な取材に基づく描写となっており、実際の行政組織のイメージをつかむにはよい題材だと思います。

そこで、今回からは、このシン・ゴジラ」を題材にして、行政学を学ぼうと思います。

 

第1回の今日は、主人公である矢口蘭堂の所属する内閣官房を通して、日本の内閣とその補佐機能を見ていきます。

 

総理大臣の弱いリーダーシップ

日本国憲法65条では「行政権は内閣に属する」と規定され、内閣はいわば日本の行政権の総元締めです。

では、この「内閣」どれだけすごいものかと言えば、中身は内閣総理大臣財務大臣文部科学大臣などの国務大臣十数名だけです。すなわち、内閣は20名程度の人々によって担われた組織なのです。

もちろん、この程度の人数では日本国すべての行政需要に対応することはできませんから、実務を担う役所として国務大臣をトップとする中央省庁があるわけです。

つまり、財務省文部科学省などの中央官庁のトップに国務大臣がおり、国務大臣の上に内閣総理大臣がいる。このうち、総理大臣と国務大臣によって構成されるのが内閣となる訳です。

しかし、この仕組み、ひとつ難点があります。

それは総理大臣がリーダーシップを発揮しにくいことです。

例えば、総理大臣が安全保障政策に熱心だったとしましょう。しかし、この場合、総理大臣は、あくまで国務大臣のトップという位置づけだけなので、防衛大臣を通して、コントロールするという手はありますが、防衛大臣防衛省が総理大臣の思うとおりに動くとは限りませんから、リーダーシップはどうしても制限されてしまいます。(もっとも、そもそも多忙な総理大臣自らが調整すること自体、非現実的です。)もちろん、言うことを聞かない場合は防衛大臣を罷免するといったこともできますが、これは自らの任命が誤りであったことを認めることになるので、実際の運用ではあまり使える手ではありません。

つまり、総理大臣が直接コントロールできる役所がないのです。

 

内閣の補佐機関「内閣官房」と「内閣府

しかし、これではあまりに不都合なので、内閣を補佐する機関として「内閣官房」と「内閣府」が設置されています。

 

シン・ゴジラ」の主人公・矢口蘭堂は、このうち内閣官房の「副長官(政務担当)」という肩書です。

内閣官房」は、内閣官房長官をトップとする役所で、内閣(特に総理大臣)の意向を反映させるために、関係機関と総合調整を行う場所です。

内閣官房のトップは内閣官房長官(劇中では柄本明演じる東竜太)で、国務大臣や与党、国会などとの調整を行ったり、記者会見を行ったりするなど内閣のスポークスマンとしての仕事もします。

そして、そのサブが、内閣官房副長官です。

しかし、内閣官房副長官は1人ではなく3人います。

官僚出身の「内閣官房副長官(事務担当)」1名と政治家である「内閣官房副長官(政務担当)」2名です。政務担当は、衆議院議員参議院議員から各1名出されます。

先ほどから言っているように関係機関との調整が内閣官房の主な仕事なので、「内閣官房副長官(事務担当)」は、官僚出身なので、役所との調整を中心に行います。一方、「内閣官房副長官(政務担当)」は、与党や国会との調整を行います。

公式設定では、矢口は山口3区選出の衆議院議員なので、このほかに事務担当と参議院議員の副長官がいるはずです。

ウィキペディアを見ると、どうやらきちんと出ているようですが、ちょっと、どの場面のどの人かよくわかりません。

 

ちなみに、もう一つの内閣補佐機関である「内閣府」は、調整機能も担いますが、内閣官房に比べれば、それよりは実際の政策の企画立案機能が、より重視されていると言えるでしょう。

例えば、「男女共同参画社会政策」は、その所管が、どこの官庁か判然としない政策です。しかし、重要な政策課題であることには違わないので、どこかの役所が実務を担う必要があります。

このような、所管が曖昧である、あるいは所管が複数の官庁にまたがる政策については、内閣府がその実務を担うことが多いのです。

 

ただ、実際のところ、内閣官房内閣府の役割分担は非常にあいまいです。

ここでは、調整機能を内閣官房、企画立案機能を内閣府と説明しましたが、内閣官房にも企画立案機能は付与されていますし、内閣府も調整は相当行っています。

 

志村から見る内閣官房の職員

内閣官房内閣府は、内閣の補佐機能を担うという機能面とともに、その組織の在り方もよく似ています。すなわち、職員の多くが出向者によって占められているということです。

具体的には、職員のうち出向者が占める割合は内閣官房が約7割、内閣府が約6割ということです。(2013年時点)

劇中でも、内閣官房副長官秘書官である志村(演・高良健吾)は防衛省からの出向です。

「出向」というと半沢直樹のような左遷のイメージもありますが、少なくとも内閣官房への出向は栄転といっていいでしょう。

職員を出向させる出身官庁(志村の場合、防衛省)からすれば、内閣官房という権力の中枢に自前の職員がいれば、最新の動向について情報が得られるというメリットがあります。そのため、内閣官房への出向者は、省内でも“できるやつ”が選ばれます。

志村も、フリージャーナリストの早船と情報交換をするなどの駆け引きにも強いようですから、防衛省内でも一目置かれた存在であると推測されます。

反対に、受け入れる内閣官房も逆に出向者の出身官庁の情報を得られるので、こちらもメリットがあります。

このように、出向者の存在は、出身官庁・受入機関双方にメリットがありますが、その一方で、組織が過度に出向者に依存すると、出身官庁の影響力が強まり、内閣官房内閣府が本来担うべき総合調整に支障が出るという指摘もあります。

 

画像出典:映画『シン・ゴジラ』公式サイト