埋木帖

政策をテーマにエッセイをつらつら書きます

「いまこそ、軽減税率」でいいの?

せっかく、前々回まで消費税のお話をしたので、逆進性対策についてお話ししたいと思います。

ちょっと前に、このポスターをご覧になった方、多いと思います。

 

f:id:hodakakato0816:20170720155503j:plain

(出典:衆院選へ新ポスター発表 | ニュース | 公明党

 

ご存知の通り、公明党のポスターなんですが、いろいろな公約がある中で「いまこそ、軽減税率実現へ。」とだいぶ的を絞ったポスターになっています。

これだけ見ても、公明党が軽減税率にこだわりがあることが分かります。

 

2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられました。

当初の予定では、また10%に引き上げられるはずでしたが、2度にわたって延期されています。

もともと、3%で始まった消費税が10%になるということで、消費税の逆進性対策が求められるようになりました。

 

逆進性とは?

例えば、ここに定価500円の商品があります。

ここに消費税が10%かかると、50円が消費税負担となります。

この商品を所得が1,000円のAさんと所得が10,000円のBさんが購入します。

AさんとBさんの所得は違いますが、税負担は二人とも同じで50円です。

では、この税負担割合を計算しましょう。

 

Aさんは、50÷1,000=0.05(5%)です。

一方、Bさんは50÷10,000=0.005(0.5%)です。

 

つまり、所得の低いAさんのほうが、所得の高いBさんと比べ、4.5%も重い税負担を強いられることになるのです。

 

もちろん、所得の多寡によって消費額も変わるので実際の税負担割合は、ちょっと変わってきますが、低所得者ほど消費税負担は重くなります。

例えば、総務省統計局「家計調査」(2016)の二人以上世帯の消費額を年間収入階級別に推計してみるとこんな感じです。

 

f:id:hodakakato0816:20170720155455p:plain

所得が低いほど税負担が重くなること、これが逆進性です。

 

逆進性対策?軽減税率

この逆進性対策として諸外国で導入されているのが軽減税率です。

軽減税率とは、食料品などの生活必需品の税率を下げて、低所得者の負担を軽減するためのものです。

確かに、食料品の税率が低くなれば、負担軽減につながりそうです。

実際、公明党はこの軽減税率導入をかかげ、実際に日本でもいったんは軽減税率導入が決定されました(再延期によって立ち消えになってしまいましたが)。

また、この時、公明党

 諸外国でも消費税(付加価値税)を導入している国の多くで軽減税率が採用されており、食料品への適用は、「世界の常識」です

出典:軽減税率 理解のために | ニュース | 公明党

 

とも発言し、軽減税率のよさを強調しています。

 

しかし、導入済みの諸外国からの軽減税率の評判は散々なものです。

OECD主催で行われたフォーラムでは、こう述べられました。

 低所得者世帯の負担を緩和するため、軽減税率を導入している国もあるが、消費税グローバルフォーラムにおける議論においては、軽減税率は低所得者を支援する方策として、対象者を限定した給付措置に比べると極めて非効率であるということが確認された。

出典:第4回 国際課税ディスカッショングループ(2014年4月24日)資料一覧 : 税制調査会 - 内閣府

 

結構な言われようです。なぜ、こうも言われてしまったのでしょう?

 

軽減税率の問題点

まず、指摘すべきは

軽減税率は導入の目的である低所得者対策として有効に機能しない

ということです。

OECDのフォーラムで言及されている「対象者を限定した給付措置」と比べながら見てみましょう。

この「対象者を限定した給付措置」とは、低所得者向けの給付のことで、「消費税率は変えないけど、その負担を賄えるようにお金をあげよう」という政策です。

確かに、今回の政策の目的は「逆進性の緩和」ですから、低所得者の税負担割合を小さくできれば、給付面で対策をとってもいいはずです。

それをより具体化した政策が「給付つき税額控除」です。

(給付付き税額控除については、またの機会に詳しく書こうと思います。)

給付付き税額控除の研究で有名な東京財団上席研究員の森信茂樹氏の分析によると、軽減税率と給付付き税額控除を比較したときの年収別の税負担割合はこうなります。

 

f:id:hodakakato0816:20170720155451j:plain

出典:消費税軽減税率の代わりに勤労税額控除を | 税制改革 | 東京財団

 

驚くべきことに、軽減税率の税負担割合の低下効果はほとんどありません

軽減税率は、確かに負担をやや軽くしますが、これは全体的な負担減であり、低所得者への負担軽減に有効とは言えません。

一方、給付付き税額控除は、低所得者に的を絞って給付をしているので、その恩恵はダイレクトに低所得者にもたらされます。

このような分析を見ると、軽減税率より給付付き税額控除を導入する方が適切だと言えるでしょう。

 

また、軽減税率は、逆進性緩和効果が弱いだけでなく、

  1. 高所得者にまでその恩恵が及んでしまうこと
  2. 軽減税率の対象選定過程で利益団体や政治家による利益誘導が行われること

などの問題が指摘されています。

 

 

私は、この軽減税率は何もかもダメな政策論議の典型例だと思います。

 そもそも、「逆進性緩和」という政策課題を解決するための政策のはずなのに、逆進性緩和にはほとんど貢献しない政策を、きちんとした議論をせずに決定してしまったからです。(きちんとした議論をしていれば、こんな決定はされないはずです。)

 

不幸中の幸いは、消費増税の再延期によって、この話もいったんは立ち消えになったことでしょう。

しかし、2019年10月には改めて消費増税が予定されているわけですから、またこの議論は起こるでしょう。

国民、そして政治家には、きちんとした議論をしていただきたいところです。