埋木帖

政策をテーマにエッセイをつらつら書きます

消費低迷の犯人は消費税か? その4

前回までのおさらい

消費低迷の容疑者を「所得の低下」「消費税」として挙げましたが、主要因(消費低迷に最も影響与えている原因)の特定には至っていません。

原因を推論する

容疑者は上がりました。しかし、決め手に欠けます。

どうしたら、主犯を突き止められるのでしょうか?

実験

最もいい方法は実験です。

例えば、所得の低下が消費低迷の原因だとするなら、人々をAとBの2つのグループに分け、Aのグループの所得を引き下げて、Bのグループの所得はそのままにします。

その結果、AとBのグループの消費額の差を取れば、所得の低下がもたらした消費への影響が分かります。

同様に、消費税についても2つのグループに分け、一方に8%、もう一方に5%とすれば、消費増税の消費への影響が分かります。

この2つの実験の結果を比べれば、どちらが最も消費に影響を与えた原因か分かります。

このような方法は「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれ、医療分野などでは薬の効果を調べるために行われている方法です。考え方は、理科の実験と同じで、このような言い方こそしませんが対照実験として自然科学分野ではごくごく当たり前の手法と言えるでしょう。

しかし、もうお分かりだと思いますが、このような所得や消費税を使った実験は現実的にはできません。

たまたま実験の対象になってしまったからという理由だけで所得を引かれたり、消費税率が引き上げられたりしては、たまったものではありません。

では、どうすればいいでしょう?

回帰分析

今回使うのは回帰分析です。

回帰分析は、RCTのように厳密に因果関係を特定できる方法とはいいがたいです。

しかし、細かいところまでしっかりとデザインすれば、有効な立証方法となります。

また、RCTでは因果関係は特定できますが、あくまでその因果関係が当てはまると言えるのは実験対象になった集団のみで、その結果が一般化できるかといえば、その判断は慎重になる必要があります。

しかし、回帰分析であれば、データ次第では、その結果を広く一般化できます。

回帰分析は十分な方法とはいいがたいですが、正しく使えば有効なツールになるのです。

 

回帰分析の考え方

回帰分析についての詳しい解説は、そこらへんに転がっていると思うので、ここでは考え方だけ、ざっくりと紹介します。

回帰分析の考え方の基本は、y=ax+b のような関数と同じです。

ここでの「x」は説明変数(独立変数)と呼ばれ、yへ影響を与える原因です。

また、「y」は被説明変数(従属変数)と呼ばれ、xの影響を受けた結果を表します。

このような式の形に当てはめることで、どの原因が大きな影響をもたらしているのかが分かります。

 

今回は、原因として「実質賃金」と「消費税」が候補に挙がっています。

また、その結果は実質消費です。

式に当てはめると、こんな感じ。

 

(実質消費支出)= a×(実質賃金)+b×(消費税)+c

 ※a、bはパラメータ、cは切片

 

つまり、実質賃金と消費税が説明変数、実質消費支出が被説明変数です。

 

計算結果

では、計算していきましょう。

計算はExcelで行います。

結果は、以下の通り。

 

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はい、何がなんだかさっぱりわかりませんよね。

 順番に見ていきましょう。

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まず、この計算が妥当かどうかを見ましょう。

妥当かどうか(式の当てはまりの良さ)は、「補正R2」で判断します。これは調整済み決定係数のことで、0~1の間の値を取り、1に近いほど当てはまりが良いことを表します。

この目安は、分析によって様々なので一般的なことは言えませんが、0.7ということで悪くはないとは言えそうです。

 

次に、説明変数の妥当性を見ましょう。

式自体は妥当でも、異物混入的に変な説明変数を取ってしまっている場合もあります。

説明変数の妥当性については「P値」を見ます。これが、0.05以下なら、まあいいでしょう。今回の実質賃金も消費税も、P値は極めて小さな値を取っているので、問題はありません。

 

さて、いよいよ影響の大きさを見ていきます。

影響力の大きさは係数を見て判断しますが、ちょっと注意が必要です。

もし、それぞれの変数の単位が同じであれば、係数の絶対値が大きければ影響も大きいと言えます。

しかし、今回の分析では単位がバラバラなので係数を素直に使えません。

そこで、今回は「t値」を見て判断します。「t値」も、その絶対値が大きければ大きいほど影響力が大きいことを表します。また、その大小で影響力の大小も判断できます。

さて、数値を見てみると実質賃金は「17.1」、それに対し消費税は「-4.5」となっています。

 

つまり、実質賃金の低下が消費の低迷に最も大きな影響を与えていたことが分かります。また、消費税も影響こそ与えていますが、実質賃金の低下に比べれば影響は限定的です。

 

以上の結果をまとめると

  • 消費低迷の主要因は、実質賃金の低下
  • 消費税も消費低迷の要因の一つだが、実質賃金の低下に比べれば、その影響は小さい

となります。

 

いかがでしたでしょうか?以上の分析は、これでもだいぶざっくりとしたもので、ずさんな点は結構あります。

しかし、このようにきちんとデータやロジックを作っていくことで、少なくとも消費税の疑いを晴らすことはできまし、実質賃金が大きな要因であることが分かりました。

 

今回は少し長くなってしまったので、今回のポイントを次回、整理していきたいと思います。